休息
「やらなきゃいけないことは一杯ある」
まず第一としてあのクソ親どもの居場所を探すところから始まる。
「まあでも、その前に――」
「ここ、出ましょうか……」
「ん……」
やはり血みどろの部屋、というのは居て気持ちのいい場所ではない。
衛生面を考えても早急に離れるのが得策か。
死体の山を越えて部屋を出る。
目的地も残す思いも何もない。
特に言葉を交わすでもなく校舎を後にする。
感慨に浸るでもなくただ足だけを動かす。
「この後はどうしましょう?」
鈴華の問い。
さっきまでの陰った表情は見えず、向日葵のように華やかに微笑む。
「そう……だな。取り敢えず車を調達しよう。あいつらの使っていた車がどこかにあるはずだ」
あいつら……つまりは一文字たちのことなのだが、鈴華たちを誘拐した際に使われた車のことだ。いや、したというよりはさせた、の方が正しいのだが、そこは置いておくとしよう。
「私……場所……知ってる」
次に口を開いたのは綾辻。
起伏の少ないその瞳が俺へと向けられる。
「車の場所ってことか?」
「ん……覚えてる……こっち」
クイクイと服の端を引っ張られる。
先導する彼女に続く俺と鈴華。
案内された先は校舎を出て数分の職員用駐車場。
俺たち学生にはあまり縁のなかった場所だ。
意外なことに結構な数の車が停車している。
その数は十を超す。
見ると、いくつかの車は窓がヒビ割れたり、車体が凹んだりと中々に酷い有様となっているがほぼ傷のない車もないわけではない。
耐久性、ということであればあまり期待はできないが、魔物との衝突などを考えないあくまでも走行用としてなら十分だろう。
やはりここでも車の選択権は綾辻に発生。
まともに運転ができるのが彼女だけ、というのと俺たちが車に大した興味がないというのもあってそれに関しての否はない。
「これが、いい……かも」
選ばれたのは一台の軽車両。
小回りのきく四人乗りの車。
綾辻は懐からピンポン玉サイズの鉄塊を取り出すと『錬金術』を発動。
車に合った鍵を形成する。
「のって」
一言。
それを首肯で返して綾辻に続く形で車に乗り込む。
ガソリンは満タン、とはいかないようだが走行できないほど少ないわけでもない。
どこかのガソリンスタンドにでも寄れればいいんだが……
「いく……よ」
軽快にエンジン音が鳴る。
発進。
スピードは速くはない。
それ故に燃費は良い。
窓を開くと風の切る音が聞こえる。
流れる風で髪が靡く。
周囲に魔物の影はなし。
それどころか人影すらも。
景色が流れ行く。
車内に会話は流れない。
だがしかし不快な静寂ではない。
鈴華は疲れからか夢の世界へと旅立ち、綾辻は運転に集中。
俺は手持ち無沙汰にただただ警戒に回る。
向かう場所に指定はない。
ただ求めるのは休息。
体は癒しを求めている。
てなわけで自然と目的は決定される。
「まずはどこか適当にホテルでも行くか」
金は無い。
しかし無問題。
そもそも営業しているわけもないのだから。
「了解」
綾辻も承諾。
犯罪じみたことでも許容範囲が広くて助かる。
生真面目な人間であればこういうことには随分と反対されることだろうが、俺たちには関係の無い話か。
犯罪と言うのなら人として最大の禁忌を――殺人を犯しているのだから今更な話だが。
それから十数分車を走らせ、到着したのは特別大きいわけでも小さいわけでもないありふれた極々普通のビジネスホテル。
勿論鍵は開いていないのでそこは『錬金術』の出番。
ちょちょいと慣れた手つきで鍵を作り出して解錠。
部屋は五人部屋を選んで三人で泊まることに。
俺も最初は各々個室に泊まることを提案したのだが、それだと面倒だし緊急時の対処に遅れるとのことで却下となった。
俺としては嬉しい限りではあるのだが、反面理性がゴリゴリと削られて辛い。
部屋の中は清掃が行き届いておりいたって清潔。
荒らされた跡もない。
寝心地の良さそうなベッドが五つ並び、大きめのテーブルにテレビもついて、浴室、トイレも完備。
庶民の俺からすれば文句の言いようがない。
俺はベッドに腰掛け、大きく伸び。
張り詰めていた緊張の糸が緩まり、急激に体に倦怠感が襲いかかる。
目を閉じれば直ぐにでも眠ってしまいそうなのを堪えて視線を鈴華と綾辻に向ける。
彼女たちもまたリラックスしながらも聴く体勢を整える。
「明日からのことについてだ」
今の段階では何の情報もない。
故に――
「先ずは俺の家に行ってみようと思う。さすがに避難もしないで居座っているってことは無いだろうけど手掛かりくらいはあるかもしれない」
望み薄、ではあるが。
何もしないよりかはマシ、と言った程度か。
「ん……賛成。異論はない」
「私も、それでいいと思います」
ということで無事、承諾も得た。
既に眠気は限界を突破。
ウトウトして頭が働かない。
意識を強制的にシャットダウンされそうになる。
「おや……すみ」
その言葉を最後にいつのまにか、俺の意識は途切れたのだった。




