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決起

「両親……ですか」


 沈痛な面持ち。

 鈴華の声は弱々しく、そこにいつもの陽気さはない。


 善良な両親のもとで育てられた彼女には縁のない話だろう。

 理解できないのも無理はない。


 だがしかし、それでも俺の意思に変動はない。


「ちなみに言っておくけど、やめるつもりはないぞ」


 先手。

 先んじて彼女からの否定を受け付けない姿勢を見せる。


「で、でも……家族ですよ? 血の繋がった……。なんで、なんでそう簡単に殺そうとするんですか」


 視線は地面に固定され、声はだんだんと尻すぼみになっていく。

 彼女の気持ちも分からないでもない。


 が――


「なあ、鈴華。本当に俺が、何も考えずにこんなことを言っていると思っているのか? さっきの言葉は嘘でも適当でもない。 本気で俺は殺す覚悟を決めている。昔から、ずっと昔から考えていたことだ。世界がこんなことになっていなくても、犯罪に手を染める結果になったとしても、俺の行動に変わりはなかったはずだ」


 初めて、俺の覚悟を吐露した。

 睨みつけるような厳しい眼光。


 鈴華はうっ、と言葉を詰まらせ、半歩、後ずさる。


 ここで追撃。

 畳み掛けるように更に口を開く。


「家族だから……それで済まされるようなことで復讐なんか考えると思うか? それだけのことをしたから、家族でも許せない領域を超えてしまったからこそ、俺は彼奴らを殺さなければいけないんだ」


 淡々と、冷淡に淡白に。

 そこに表情はない。

 絶対に許せない。

 だから殺す。

 原理は単純明解。


 それでも彼女を説得するには至らず。


「本当に……本当に復讐なんてする意味があるんですか!? わ、私は先輩にこんなことに言える立場じゃないのは分かってます。私も復讐に囚われてしまっていた人間です。でも、後悔……しているんです。あの時の復讐に意味はあったのかって」


 暗い声音。

 後悔先に絶たず。

 取り返しのつかないことをグズグズと悩んでいても仕方がない。

 あの時の彼女には怒りを、憎しみを向ける相手が必要だった。

 そしてその矛先となり得る対象がいた。

 ただそれだけのこと。


「意味がない……なんてことはないはずだ。あの復讐が無かったらお前は立ち止まったまま、何も出来ずに人生を終えるだけだっただろう。そして今、俺にこうして口を出すこともなかったはずだ」


 フッと一つ息を吐く。

 固まった表情をほぐすように浮かべられた笑み。

 どこかぎこちないその笑みはしかし少しだけ俺の心に余裕をつくる。


「俺はさ……ただ単純に恨めしいから殺そうとしている。でも、彼奴らはいつか絶対に誰かが殺さないといけないような人種だ。あんなクズどもを生かしておいたら俺みたいに不幸になる奴が増えていくかもしれない。俺にはそれが許容できない」


 それが息子としての最大の親孝行。

 殺すことで後世に汚名を残さないよう、俺がこの手で始末する。


「じゃあ先輩は……ご両親を殺しても心が痛まないんですか?」


「そりゃあ……どうだろうなぁ。こんなに憎んでても一応、血の繋がりはあるわけだし案外、ちょっとは胸が痛くなることもあるかもしれないな」


 おどけるような口振り。

 しかし、未来のことなんてわかるわけもなく。

 親殺しは大罪と言うし、もしかしたら本当に後悔するなんてことも無きにしも非ず、だ。


 そんな俺とは反対に鈴華の表情は苦々しく歪んでいる。


「だったら尚更、今からでも復讐は止めるべきです!」


 激しく詰め寄る。

 距離としては目と鼻の先。

 手を伸ばせば触れられる距離で俺は再度宣言する。


「……鈴華、何度も言うようだけど、お前が何を言ったって結果は変わらない。俺はやるよ」


「でも、でもそれじゃあ……先輩が傷つくだけじゃないですか!? そんなのって……あんまりですよ」


 食い下がる。

 いや、心配してくれているのだろうか。


「だったらさ、俺が傷ついたらお前が治してくれよ。回復ならお手の物……なんだろ?」


 彼女が言った、その言葉。

 貴方を守ると、癒すと言ってくれた。

 嬉しかった。

 その言葉は今も俺の頭にこびりついて離れない。

 気持ちが、昂る。

 高揚する。


 ただでさえ密着するか、というほどの距離を更に詰めて、抱き寄せる。


「俺一人じゃあ、何か失敗しちまうかもしれない。だから……助けてくれよ。俺の為に。俺が前に進むために……お前の力を貸してくれ」


「……その言い方、卑怯です」


 顔を俺の胸に埋めて、小さく呟く。

 胸から、いや体全体が彼女の体温を感じる。

 暖かい、生き物特有の温もり。

 それに加えて、女性らしい柔らかさ。


 ドキドキと胸が高鳴る。


「あぁもう! やります、やりますよ! そんなの……やらないわけにはいかないじゃないですか」


 紅く染め上げた顔で俺の瞳を見上げる形で覗き込む。

 所謂、上目遣いというやつだ。


 緊張。

 羞恥。

 体に熱が篭る。


 視線が瞳と瞳で交差する。

 潤んだ瞳が妖艶さを醸し出す。


「ゴホンゴホン」


 わざとらしい咳。

 その音源は鈴華のすぐ隣。


「あ、綾辻……」


「私の存在……忘れてた?」


 ジト目。

 加えて咎めるような口調が突き刺さる。


「いや、そんなことは……」


「ある……でしょ?」


「す、すまん」


 責める彼女に俺はまともに反論も出来ない。

 ただ謝罪する以外の選択肢はなし。


「私は……手伝うよ。黒っちにどこまでもついて行くって……決めたから」


 冷たい目から一変、真剣な面持ちでそう語る。


 彼女も力を貸してくれるのならばまさに十人力。

 頼りになることこの上ない。


 鈴華と綾辻。

 二人の仲間を伴って――俺の復讐がまた、始まる。


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