黒乃 新の復讐劇③
「みんな、演出ご苦労さん。いい演技だったよ」
稲垣を含めてその他全ての生徒たちは俺に向かって首を垂れた。
一文字はその光景を信じられないとばかりに双眸を見開く。
「これ、は……どういう?」
茫然自失。
今の一文字にはこの言葉がお似合いだろう。
視線はさっきまで自分の部下だと思っていた人間たち――つまり、俺に跪くこの少年少女らに固定されていた。
「クハッ! ははははっ! だからさぁ……何回も言わせんなよ。こいつらはもうお前の部下じゃあなくて……俺の下僕なんだよ。なぁ、稲垣?」
「はっ、その通りです。私の忠誠は既に貴方様へと向けられております」
昨日の今頃まではこいつらもまだ一文字に与する従順な部下だった。
では何故俺の下僕へとジョブチェンジしたのか。
その種は至って簡単なものだ。
[暗示]。
簡潔に言うならばこの魔法によるものだという説明が一番正しい。
[暗示]という魔法は言葉や合図などによって他者の思考や行動を操作・誘導する魔法だ。
これを昨日、この学校にいたほぼ全ての生徒に使用して自分が俺の下僕であると認識させた。
何度も魔力が底を尽きかけそうになったが、そこはショップを利用してMPポーションを湯水のように使いまくる力技でどうにかした。
「わかったか、一文字。もうお前を守ってくれるお仲間はいない」
沈黙が流れる。
一文字は俯いたまま、ただただ時間だけが浪費される。
「……お、俺をどうするつもりだ?」
数秒の間。
この後に静寂を破ったのは一文字だった。
額に脂汗を滲ませて、真っ青に染まった顔面。更にはその瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
懇願するような彼にしかし俺は現実を突きつける。
「勿論……殺すに決まっているだろう?」
さも当然だ、とばかりに言い放ったその言葉に一文字が絶望を露わにするのは不思議なことでは無いだろう。
彼にとってそれは事実上の死刑宣告となったのだから。
「ただ、どうやって殺すかが問題だな……」
頭を悩ませる俺に一文字はへばりついて延命を請い願う。
「お願いします! な、なんでもします。なんでもしますから、どうか……命だけはッ!」
と。
「別にお前にしてもらいたいことなんかないし、殺す以外に俺にメリットが無い。それ以上に俺がお前を殺さないと気が済まない」
だが、その嘆願も意味は成さなかった。
「お、俺の固有スキルはそこら辺の奴とは違う! これがあればお前の役にだって立つはずだ! い、稲垣の奴よりも俺の方が圧倒的に強いし、そ、それに……」
「あー、もういいや。耳障りだから――口を閉じろ」
『王者の威圧』を用いた恐怖による拘束。
これならば口を開く元気もなくなるというものだ。
「もうお前に下す誅罰は決定した」
というか今決めた。
決まった。
「えーと、そこのあんた……ちょっとこっち来い」
俺は一人の女生徒を指差した。
女は一言、「はい」と返事すると俺の下まで歩み寄り、膝をついた。
「私に何か御用でしょうか」
一文字がその女生徒の顔を覗き見る。
「なっ!? お、お前……北島!?」
「ん……お前の名前は北島、というんだったか?」
驚愕の表情を浮かべる一文字をスルーして俺は問いかける。
「はい、私の名前は北島 英里と申します」
「ふーん……そんで、北島は確か……一文字の恋人だったな?」
そう、この北島という女は一昨日ここを訪れた際に一文字と行為に耽っていた相手だ。
「元、ですが。穢らわしい黒歴史を積んでしまいました」
勿論これも[暗示]によって書き換えられた感情だ。
まあ、元々この女が単純に愛だけで一文字と付き合っていたとは考え難いが。
「そん、な……なんで?」
昨日まで、いやついさっきまでは恋人だと信じていた相手から明確に拒絶の言葉を送られる。
さぞかし辛いことだろう。
だが、同情はしない。
後悔もない。
ただあるのは復讐心のみ。
濃く、濃く、濃厚で濃密な絶望を漂わせる一文字。
しかしそれでも、まだ足りない。
まだまだ、お前には堕ちて貰わなければ困る。
俺の受けた痛みと屈辱、数倍増しでお返ししてやるよ。
なに、心配すんなよ。
稲垣も北島も他の奴らも、直ぐにお前の後を追わせてやるから。
だからまずは――
「北島……お前に主命を下す。こいつを――喰らえ」
俺は冷えた声で彼女に一つ、命を下した。




