黒乃 新の復讐劇
やっとです。やっと復讐パートに入りますよ!
俺はある一室の前で脚を止めた。
部屋の扉に付けられたプレートにはこう書かれている。
校長室、と。
昨日も訪れたここは一文字の私室と化していた。
なら、一文字への報告の時もここへ来るのは間違いないはずだ。
俺は極力音を立てないようにソッと扉を開く。
すると――
「おいおい、そんなにコソコソ隠れんなよ。俺たち友達だろぉ〜……なぁ、黒乃君?」
久しぶりに聴いた、一文字の嫌みったらしい声。
それが俺に向けられた。
“死神の礼装”は気配を極限まで薄くするもので、そう簡単に気づくことなんてできないはず。
そのはずだった。
「もうバレてんだよ。サッサと出てこいよ。前みたいに一緒に遊ぼうぜぇ」
粘着質なその声は不愉快でしかも鬱陶しい。
一文字の言う通りにするのは癪だがバレているなら隠れていてもしょうがないと扉を開けて姿を見せる。
「やっと出てきたか……久しぶりだなぁ黒乃。会いたかったぜぇ」
「死ね。気色悪い」
ニタリと笑う一文字のその顔の気味の悪さに悪寒が走る。
「お前もなかなか言うようになったじゃねぇか」
「そんなことはどうでもいい。鈴華と綾辻を……どこへやった」
「鈴華と綾辻ぃ〜? 誰だそれ」
とぼけた風に口角を吊り上げながら疑問符を浮かべる一文字に怒りが募る。
顔を見るだけでもムカつくというのに更にこの舐めた態度。
ただでさえ殺そうと思うほどだった俺の怒りが天元突破するのもそう遅くないと考えるほどこいつは俺を煽ってくる。
「あぁ〜、そういえばさっき稲垣の奴が女捕まえたって言ってたなぁ。あっもしかしてそれってぇ……お前の女だったりするぅ!? それだったらすまんなぁ、そいつらは俺の性処理道具になっでもらう予定だからさぁ、お前には返さないんだわぁ。あ、でもお前が俺の奴隷になるってんならお零れくらいやってもいいぜぇ?」
どうする? と暗に聴いているのだろう。だが、こいつは俺がそれを受け入れるとは微塵も思っていない。というより俺がそれを受け入れたとしても前と同じくゴミのように扱われる……いや、以前よりも更に酷い扱いを受けることだろう。
「ハッ! そんなことすると思うか?」
「寧ろやらないのか、破格の条件だろう?」
何を言っているんだ、とばかりに首を傾げる。
こいつにとっては自分の奴隷として働かせることは破格の条件となるらしい。
「そんなおぞましいことをやるぐらいなら死んだ方がマシだ」
意味がわからないという風な表情を浮かべる一文字にそう吐き捨てる。
「なんだ、だったらもうお前いらないわ――死ね」
突如、一文字の顔は無へと変貌。
右の掌を俺に向け、そしてこう呟いた。
「黒き光よ……破壊しろ」
発せられたその一言に呼応して突き出されていた掌から黒い光が光線となって俺を襲う。
咄嗟にこれは触ってはいけないものだと判断した俺は『銀気解放』を発動させた。
しかし銀色のオーラを身に纏い急上昇した人外並みの身体能力でもってしても光の速度で放たれた光線を避けることはできず、直撃。
したのだが――
「あれ? なんとも……ない」
「な、なんでだ、なんであれを受けて立っていられる!?」
俺の体には何の異変も現れなかった。
傷が付くことも無ければ何か状態異常にもなっていない。
これも『銀気解放』のお陰か?
そしてこれは一文字の驚きようからして想定外のことだと予想できる。
「ま、まさか……」
そう言って一文字は虚空に手を伸ばす。
恐らくはステータス画面。
今更になって何を見ているのか。
いや、それよりも。
「敵が、目の前にいるのに随分と余裕があるじゃねぇか」
その間に俺が何もしないと思っているのか?
「オラァ!!」
魔法はまだ使わない。
まず最初はこいつをこの手でぶん殴ってやりたかった。
「グベェ!! ……ぐ、かはっ」
銀色のオーラを拳に集めて放たれた一撃は一文字の頬を捉え、まるで漫画のように壁に衝突してみせた。
苦しそうに呻き声をあげる一文字だが、情けをかけるつもりはない。
「お……前、固有スキル持ち……だったのか」
「だからどうした」
「……い、今なら俺の直属の部下にしてやるぞ! そ、それに他の奴らよりもずっと良い待遇を約束する!」
命乞いのつもりか、汚らしいその口で無様にも捲したてる。
というか、自分は俺よりも立場が上というのは絶対に覆らないらしい。
見下げ果てた奴だ。
勿論、どんな命乞いであっても許すつもりは無かったが、本当に助けてもらおうという気があるのか正気を疑うくらい下手くそだ。
「お、お前の女もすぐに返す。だから頼む……殺さないでくれぇ!」
お前の女、この言葉に俺はピクリと反応してしまった。
「そういえば、結局二人はどこにいるんだ?」
「あ、あいつらは……」
一文字はちらりと扉の向こうに目を向ける。
そして。
「小太郎様! 只今お迎えに上がりました!!」
バンッと勢いよく扉が開かれた。
そこには数十という人間――一文字の部下たちと頑丈なロープで縛られた鈴華と綾辻がいた。




