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決行の朝

総合PV500,000、ユニークPV100,000到達しました。

ありがとうございます!

「ご馳走さまでした」


 と手を合わせて挨拶するのは鈴華。

 綾辻は満足げな表情を浮かべ、お腹をさすっているばかりだ。三皿もお代わりしておいてまだ腹八分目というので無理だと思いながらもしょうがなく四皿目を出してやったら本当に平らげやがった。

 

 そこらへんの男どころかフードファイター並みの胃袋か、というほどのたべっぷりだった。


「胃袋つかまれた」とかなんとか言ってたが、それは普通男が言うセリフだろう?


 まあ、作った側としては美味しそうに食べてくれるので嬉しいことこの上ないのだが、将来食べ過ぎで太らないかと心配なところではある。


 食後は俺と鈴華で皿を洗った後は特にすることもないのでソファに座ってゆっくりしたり、綾辻が『錬金術』で何やら作っているのを眺めたりして過ごしていたのだが、唐突に思い出したように鈴華が一つの問いを投げかける。


「そういえば、先輩。学校出る時に用事があるって言ってましたけど、一人だけ残って何してたんですか?」


「ん? あーまぁ、今はまだ秘密……かな」


 おどけるようにそういう俺だが、鈴華はどこか不満げだ。

 視線を移すと隣に座る綾辻も気になっていたようだった。


「ちょっとばかし仕掛けをしてきただけだよ。あと予定よりも早くなったが作戦の決行は明日になったからよろしく」


 半ば強引に決めた俺の計画にしかしどちらも反対することはなかった。


 ◆


 そして時は過ぎ、翌日。


 昨日と同様に俺はソファの上で目を覚ました。


 目覚めは悪くない。

 むしろいつもより体が軽く感じられるくらいだ。

 これも今日が待ちに待った復讐の日となることに起因しているのかもしれない。


 体を起こして一つ伸びをする。


 思ったよりも体が固まっていたようで伸びの瞬間に吐息が漏れて出た。


 若干の恥ずかしさを紛らわそうと窓の外にチラリと視線を向ける。

 そこには俺の心情をそのまま映し出したかのような、ことごとく陽の光を遮る厚く仄暗い空全てを覆い隠すような雲があった。


 どんよりと曇った灰色の空はしかし、俺に重苦しい感情を抱かせることはない。


 それがまるで俺の復讐を天が祝福するように思えて仕方がなかった。


 そして誰にともなく誓ったのだ。


 ――絶望のその果てまで追い詰めて、最高の恐怖と後悔と恥辱と失意と共に、殺してやろうと。


「あれ、先輩? 今日も早いですね」


 背後からここ最近では聞きなれた声が聞こえてきた。


 振り返ると、そこには部屋着のままリビングに現れた鈴華の姿があった。


「俺はさっき起きたばっかりだよ。それにお前だって十分早いだろ?」


 寝起きでボサボサなままの髪を手櫛で整えながら手で口を隠して女子らしい上品な欠伸を漏らす。


「私はいつもこのくらいの時間に目が覚めちゃうんですよ」


 綾辻は? と聞くとまあ、そりゃそうだと言った感じでまだ爆睡中とのことだが、起こすには早い時間だしもう少し寝かせておくことに。


「それにしても今日は曇りましたね」


「ああ、そうだな。でも、作戦の決行の取りやめはないぞ。天気が曇った程度じゃ何が変わるわけでもないしな」


「もちろん、私は止めるつもりはありませんよ。というか、止める権利なんてありませんから……」


 一瞬、ほんの一瞬だけ、鈴華の顔に陰が射した。


「そ、それじゃあ私は着替えてご飯作りますね! 先輩も早く着替えちゃって下さい!」


 無理をして作り出したような少し引き攣った笑顔。

 それにさっきの顔。


 もしかして鈴華はあの時の復讐を後悔しているのかもしれない。

 そして、本当は俺の復讐だってやめてほしい……と。


 たしかに一般には復讐なんていいことではない。復讐は何も生まない。なんて言われがちだ。


 しかし、俺はそうとは思わないし、思えない。


 やられたらやり返すのは人間として当たり前のことだ。


 それに、こうでもしないと俺自身が前に進める気がしない。

 このまま、復讐を諦めてなあなあで生きていくとしたら?

 そしたら俺はどうなる?

 罪悪感もなく生きていける。それもそうだろう。だがしかし、それと同時に晴れることのない靄を抱えて生き続けることになる。


 寝て起きるたびにあいつらが恐怖の対象として脳裏に浮かんでくることだろう。


 毎日毎日、抵抗することも許されず必死に耐えてきたこの十数年。


 その分の恨みをぶつけることもできずに諦めることなんて絶対に出来るわけがない。


 鈴華の気持ちだって分からないでもない。


 でも、俺はこの意思を曲げるつもりはない。


 どうなろうとも。



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