ビーフシチュー
今回はほぼ料理回です。
宝石店の品物を片っ端から強奪した後は工場らしき場所をいくつか回った。
鉄塊がポンと置かれている所なんかは無かったが、『錬金術』で加工して[収納]を繰り返した。
十分な量、というか[収納]に入りきるギリギリまで鉄塊を詰め込んでから帰宅した。
「疲れた」
そう言って重力の従うままにソファに倒れたんだのは綾辻だ。
俺は机に宝石類を[収納]空間からばら撒き、綾辻の隣に腰を下ろした。
そして現在のこの家の主人である鈴華はお茶を入れてきますね、と台所へと引っ込んで行った。
至れり尽くせりな感じで少し申し訳ない。
家に迷惑になっているのは俺たちの方にもかかわらず、家事なんかは殆ど鈴華がやっているような気がする。
俺がやろうか? と申し出た時も頑なに譲ろうとはしなかった。
だがしかし、流石に全てを鈴華にやらせるのも違うだろうという事で今日の夕飯は俺が作ると決めた。
まあ、まだ鈴華には言っていないし自分がやると遠慮することは間違い無しなのだろうが。
「はい、お茶ですよ。あ、あと賞味期限の近くなっていたお菓子があったので食べちゃって下さい」
お盆にお茶と菓子をのっけて鈴華が台所から出てきた。
その表情は綾辻とは対象的でニコニコと微笑を浮かべている。
「あんがと。あ、それはそうと今日の夕飯は俺が作るから」
「えっ?」
それが俺の一言で面白いほどに一変した。
悲哀の色がありありと顔に映し出される。
「えっと……もしかして私のご飯、美味しくなかったですか?」
ウルウルと目に涙を溜めて問われる。が、そんな訳はない。
「いや、お前の料理は美味しかったよ。また作って欲しいくらいには」
「じゃ、じゃあ……」
「でもよ、お前に頼りすぎるのもダメだと思うんだ。鈴華にばっか負担かけて体でも壊されたら叶わないし、それに、最近俺もあんま料理とかしてなかったし、腕を鈍らせたくないからな。それとも、俺の料理は食べたくないか?」
仕返し、とばかりにそう返す。
「その言い方はずるいです」
「なんだよ、お互い様だろ?」
フフッとどちらからともなく笑いが漏れる。
鈴華もさっきまで浮かべていた涙なんて引っ込めて手で口を隠して上品に楽しそうに花の咲いたような笑顔を浮かべてみせた。
「わかりました。じゃあ今日の夕飯は先輩にお願いしちゃいますね」
期待しています。といって湯呑みを片手にソファに腰掛け、眠りについてしまった綾辻の頭を丁寧に優しく慈しむように目を細めながら撫で始めた。
これじゃあどっちが後輩かわかったもんじゃないな。と嘆息を漏らしながらも今日まで消えなることのなかった緊迫した雰囲気が少し、ほんの少しだけ緩んでいくのを肌で感じた。
「そんじゃあ早速、台所借りるぞ」
「あ、はい。台所にあるものは勝手に使ってもらっていいですよ」
窓から差し込む光が赤く色づき始めたのを確認して調理に入る。
時刻は午後4時。
手の込んだ料理の準備を始めるには丁度いい時間と言える。
さて、問題は何を作るかだが……。
……そうだ。
「ビーフシチューを作ろう」
ということでまずは材料があるか確認する。
必要になるのは牛肉のロース、赤ワイン、玉ねぎ、人参、中濃ソース、ケチャップ、にんにく、あとは調味料として塩胡椒、砂糖、バター、ローリエといったところか。
肉と玉ねぎ、人参は[収納]空間にまだあった筈だしそれ以外もこの家には一式揃っていた。
材料に問題はなかったので安心して調理を始められる。
まずは下準備。
肉を赤ワインにつけて放置しておく。
本当なら四、五時間くらいはつけておくべきらしいけどそれは無理だから二時間くらいかな?
待ち時間は暇になるのでご飯を炊いて、ビーフシチューにあう付け合わせを作っておく。
まず、バランスを考えサラダとしてキャベツとラディッシュ、パプリカを適当に切って塩を揉み込んでドレッシングをかけ、完成。
次はビーフシチューに使うデミグラスソースを作る。
中濃ソースとケチャップを目分量で混ぜ合わせる。
このあとはやはり時間が余ったのでショップ画面でも眺めていた。
そしてあっという間に三時間。
肉は十分柔らかくなっていたので取り出して一口大に切り分けていく。
それを塩胡椒してからキッチンペーパーで水気を抜き、強火で焦げ目をつけていく。
焦げ目がつくほど焼いたら鍋に潰したにんにくとローリエ、肉を漬けていた赤ワインと水をぶち込んで強火で煮込む。
アクが出てきたらこまめに取り除くのも忘れない。
そのあとは一時間ほど煮込み続ける。
肉が柔らかくなったのを竹串を通して確認するとローリエと一緒に鍋から取り出し、残り汁をさらに煮詰める。
煮詰めて体積の減った汁に作ったデミグラスソースを投入し、塩胡椒で味を整える。
そしたら一度取り出した肉をもう一度鍋に戻してバターを追加。
これで本格的ビーフシチューの完成だ。
皿にご飯を盛り付け、その横に出来立てのビーフシチューをかけてやる。
濃厚な芳しい匂いを漂わせるそれは夕飯時の今、食欲を大いに刺激してくる。
綾辻も匂いにつられて目を覚ましたのか椅子に座って料理の完成を今か今かと待ち構えていた。
「はいよ。今晩は俺特製ビーフシチューだ。味わって食べろよ」
綾辻だけでなく、その隣の鈴華からもゴクリと喉を鳴らす音が鮮明に聞こえてきた。
「もう、食べていいの?」
と、急かすのは綾辻。だが、鈴華も待ちきれないとばかりに懇願の目を俺に向ける。
「ん、先に食べていいぞ」
俺の返事を合図に綾辻は勢いよくシチューにガッつく。
鈴華も食べ方は上品ながらもいつもよりスプーンを口に運ぶ速度が速いように見える。
どちらも幸福そうな顔で食べてくれるものだから作り手としては素直に嬉しくおもう。
さて、それじゃあ俺も食べるかな。
「いただきます」




