高級車
校門を抜けたところで気がついた。
「あ、そういや車は壊れたんだっけな……」
「う……ごめんなさい……」
車をぶっ壊した張本人、綾辻がシュンと肩を落として頭を下げる。
別に怒っているわけでは無いが歩いて移動、というのが面倒なのもたしか。
「どっかで新しい車を調達するか?」
「まあ、それがいいでしょうね」
鈴華も俺の案に賛同する。
綾辻の方もそれに関して不満は無さそうだ。
鈴華がいうには、なんとも丁度いいことに近くに自動車販売店があるらしい。
それも高級車専用のやつだ。
それを聞いて、綾辻のテンションはかつて無いほどまでに上がっていった。
◆
「それで……ここがそうなのか?」
歩いて十分ほどだろうか、魔物に遭遇することもなくたどり着いた場所は何十という数の高級車を取り扱う自動車販売店……のはずだったのだが……。
「ボロボロですね……」
店内は荒らされ、制服を着た店員と思しき数名は血に塗れた骸となっていた。
更に、今回俺たちが求めていたはずの高級車の殆どは無残にもガラスが割られ、ところどころに凹みが出来ていた。
それはもうしょうがないと出来るだけ傷の少ない車を探していく。
とは言っても、俺も鈴華も車について詳しいわけでは無いのでやはり決めるのは必然的に綾辻となるわけで。
「これと、これとこれと……あとあれもいいかも……」
かれこれ一時間以上車選びに夢中になり、日はもう落ちかけて暗くなり始めていた。
しかし、早く決めろと言える雰囲気でも無く綾辻の決定まで黙って見守っているというわけだ。
それから更に一時間が経過。
あたりはもうすっかり黒く染まり夜といった様相を呈していた。
結局綾辻が選んだのは四人乗りの頑丈そうな車だった。
前回の反省を生かして、ということだろう。
綾辻は手際よく鉄塊から鍵を作り出して車に乗り込む。
俺たちもそれに続いて乗り込んだ……のだが。
「うお……椅子柔らか……」
「た、確かにこれはすごいですね……流石は高級車」
思ったよりも豪華な作りに少々の感動を覚えた。
「ところで……これから何処に行くんです? あのマンションに帰るのも、距離的にちょっと面倒ですよね」
唐突に発せられたその疑問に沈黙が流れる。
そんなのこと考えてもいなかった。
「ど、どうしようか?」
「考えてなかったんですね。……それじゃあ、私の家に来ますか?」
少し照れ臭そうに笑った彼女の笑顔は、しかし何処か陰があるように見えた。
「えっと、ここからだと結構近いですし」
「あ、ああ。俺はそれでも構わない」
「ん……私も、異論は……ない」
少しばかりどもってしまったが、問題ない。
俺たちは鈴華の案内の下、車を走らせていく。
まあ、俺たちと言っても運転しているのは綾辻だけなんだが。
そんでもって十分後。
ようやっと目的地に到着。
因みに道路で彷徨っていたコボルトなんかの魔物は全部スルーしてやった。
「ええっと、どうぞお入り下さい。って言ってもちょっと荒らされちゃってるみたいですけど」
家の中は鍵がかけられていた為、何かされた訳ではないらしいが庭はそうともいかず植えられていた花なんかは踏みつけられた跡や引きちぎられたような跡が残っていた。
家の中に入るとある意味予想通りな、綺麗に整理整頓された玄関が俺たちを出迎えた。
俺と綾辻は揃って感嘆の息を漏らす。
綾辻の家がどうなのかは知らないが、うちの玄関なんて人様に見せられるほど綺麗なものじゃない。
少なくともこの家の玄関とは比べることすらも烏滸がましいレベルだと断言できる。
続いて鈴華に案内されてリビングに。
こちらもまた、お洒落な家具に囲まれた落ち着いた感じのイイ部屋だ。
俺と綾辻はソファに座らされて鈴華は飲み物を取ってきます、と台所へ向かっていった。
◆
そのあとはもう時間も時間という事で夕飯を食べようということになったのだが。
「作るのは、なんかもう今日はめんどくさいな」
という事で、全てインスタントで済ませることになった。
「そういえば、俺は今日でめちゃくちゃレベルが上がったんだが、二人はどうだったんだ?」
インスタントラーメンを啜りながら俺はふと尋ねた。
決して栄養バランスの良いものではないが、これが美味いのだからまたタチが悪い。
「あ、私も結構レベル上がりましたよ。あのコボルトを倒した時は一気にレベルアップしました」
「ん……私も」
ということらしく、キャッキャと騒ぎながら本日の夕飯は終わりを迎えた。
ちなみに、鈴華は冷凍のパスタ。
綾辻は冷凍炒飯だったということだけ記載しておく。




