激闘 2
シルバリーコボルトから吹き荒れるオーラは目に見えて輝きを増し、周囲を銀に染め上げた。
「な、なんだ!?」
突然の異変に叫びを上げるが直後に放たれたコボルトの咆哮によってそれは掻き消された。
その咆哮は今までよりも更に重く、深く、鋭く響き渡り、衝撃波迄もを伴って俺たちを襲った。
ただの叫びであるはずのそれが俺たちの体を浮かし、たたらを踏ませた。
視線を地面からコボルトへと戻すとさっきまで銀色だったオーラは白と銀が混じり合った白銀色へと姿を変えていた。
「もう一段階、強くなった……ってか?」
ふざけんな、と吐き捨てながらも魔法発動の準備を進める。
鈴華はいつの前にか俺の前に陣取り、剣を構えていた。
白銀色のオーラを体に纏ったコボルトの瞳は赤く、紅く妖しい光を放ち、俺たちを睥睨する。
そしてその瞬間。
身体がブレたと思ったら鈴華の真正面に姿を現した。
さっきまでなら『縮地』を使っていたとしても到底有り得ない速度に溜息すらも出す事が出来なかった。
しかし、完全に虚を突かれた筈の鈴華だったが、持ち前の身体能力と反射神経でもって剣の腹を使って左拳による攻撃をなんとか防いだ。
だが、コボルトの攻撃はこれだけでは終わらず、鈴華が体勢を崩しどうあがいてもガードを出来ない瞬間を狙ってその強靭な右脚から回し蹴りが放たれた。
無理だ。防ぎようがない。鈴華がやられた。そう考え、反射的に目を瞑った俺たちだったがそれは杞憂に終わった。
鈴華の固有スキル『守護障壁』がその命を繋いだ。
更に、渾身の一撃として放たれた右脚を弾き返されるとは思ってもいなかったコボルトはその衝撃によって尻餅をつく。
――いまだっ!
俺は唱える。
今、この攻撃で決着をつけてやろうと意気込みながら、唱える。
「[影沼][雷球][闇槍][闇槍][闇槍]」
[影沼]で体を拘束。
[影縛]も使おうかと思ったが、あれは消費MPこそ少ないがそこまでの拘束力はない為、直ぐに壊されて意味を成さないだろうという判断から使用は断念した。
続いて発動させた[雷球]は顔面目掛けて射出した。
主にこれは視界を眩ませるのが目的だ。
攻撃としての本命は三連続で放たれた[闇槍]のほう。
頭、心臓、金的。
それぞれ急所を狙って放たれたそれは直撃した――と思われた。
白銀に輝くオーラが[闇槍]による攻撃からコボルトを守ったのだ。
万能とも言えるそのスキルには感嘆どころか軽く恐怖すらも覚える。
『よもや、ここまで私にこのスキルを使わせるとはな。少々侮っていたようだ。だが、貴様らが死ぬことに変わりはない。覚悟しろ、次で確実に殺してやる』
淡々と述べるコボルトとは反対にその体は眩い光――オーラを放っている。
神々しいとまで言えるその姿だが、そう簡単に負けてやるつもりはない。
一瞬の沈黙。
両者ともにピクリとも動かず相手の出方を伺う。
まず最初に動いたのはこちら側だった。
鈴華が鉄剣を片手に突撃。
それに合わせて綾辻が銃声を轟かせる。
銃弾は左脚を貫通。
コボルトは苦悶の表情を浮かべながらも向かってくる鈴華からは視線を外さない。
俺も支援しようと魔法を放つ。
まずは突撃する鈴華に[加速]をかけて行動力を強化、ついでにコボルトに[遅延]。
動きが鈍くなったコボルトに追い打ちをかけるように[闇弾]をばら撒く。
避けきれなかった数発が直撃し、更に動きは鈍っていく。
この時、鈴華がコボルトの間合いに入った。
[加速]の魔法によって増した速度と体重を乗せた一撃を食らわせる。
が、流石にこの直線的な攻撃をまともに食うほど弱ってはいないのかヒラリと躱し、白銀の拳を鈴華に向ける。
防御態勢に入った鈴華だが、そこで綾辻が動いた。
「『性質逆転』!」
これによってコボルトの真下の床は柔らかく変質。
負っていた傷のせいもあるのか突然のことに対応出来なかったコボルトは下の階へと落ちていく。
だが、恐らくこれだけでは死なない筈。
俺たちは警戒を解かずに周囲に注意を払いながら鈴華から[小治癒]による治療を受ける。
「黒っち、氷とか……持ってる?」
唐突に綾辻が氷を催促する。
「一応、[収納]はしてあるけど……何に使うんだ?」
「ん……内緒」
人差し指を口まで持ってきて可愛らしくポーズを決める。
俺も何か意味があるのだろうとそれ以上の詮索はやめておいた。
『グオォォォォォ!!』
本日何度目かの咆哮。
もう慣れてしまったのか最初ほどの威圧感は感じられない。
咆哮を合図としてコボルトは綾辻の創り出した穴から飛び出してくる。
けど、それじゃあいい的になるだけだ。
俺は[闇弾]で無防備なその体を狙い撃つ。
だがしかし、それを待っていたとばかりにコボルトは[闇弾]の魔法を白銀のオーラでもって霧散させ、『縮地』を使って一足飛びに俺へと襲いかかる。
『殺す! 殺す殺す殺す殺す、絶対殺す!!』
憎悪に狂ったその瞳を輝かせて激闘はついに終着へと近づいて行く。
「死ぬのは……お前の方だ!!」




