激闘
「っ――! 鈴華!!」
思考の渦に飲み込まれ注意が散漫になっていたその時、銀色のオーラをその身に纏ったコボルトが鈴華の体を吹き飛ばした。
だが、これで鈴華を責めることはできない。
10以上ものレベル差がありながらここまで踏ん張ってくれた彼女は寧ろ勲章ものだと言ってもいい。
俺も今、考え得る全ての作戦を捻り出しはしたが、それで勝てるとは露ほどにも思えなかった。
鈴華を吹き飛ばしたシルバリーコボルトは次はお前だとばかりにジロリと俺を睨んだ。
威圧感に押し潰されそうになるが、必死で耐えながらお返しとばかりに『王者の威圧』を発動させる。
コボルトは一瞬だけピクリと体を震わせて反応したが、矢張りレベル差のせいかそこまでの効果はないようだった。
シルバリーコボルトは俺に威圧をかけられた事で更に苛立ったようで鼻息がさっきよりも荒くなり、額には青筋を浮かべている。
怒らせちまった、やばい。なんて事を思っている暇もなく、コボルトは一足で俺との距離を詰めた。
前も使っていた『縮地』というスキルだろう。
反則すぎるといっても過言ではないその速度に俺は全く反応できなかった。
『死ね!』
鈴華の時と同じようにその剛腕が振るわれようとしていた。
だがしかし、俺の背後からドパンッという銃声が聞こえ、それはコボルトの腕に突き刺さった。
サプレッサーをつけてなお押さえきれていない狙撃銃の威力はまともに喰らえば一撃で死んでしまっても不思議ではないくらいなものだ。
とはいえ、普通とはかけ離れた存在であるこのコボルトには関係のない話だ。
しかも、着弾したのは腕であって当たっても死ぬ部位ではないのだからなおさらだ。
しかし、今まで俺たちが一つの傷も負わせることの出来なかったコボルトの腕には綾辻の放った弾丸が貫通し、ドロドロとした赤黒い血液が流れ出ている。
チャンスとばかりに俺は追撃の魔法を発動させようとする。
コボルトはそうはさせまいと貫かれた腕とは反対の左腕を俺目掛けて突き出した。
「[闇槍っ!――くそがっ」
コボルトの放った左の正拳を避けようと体を捻らせて回避行動をとったせいか、魔法は発動する事は無かった。
「もう一回! [闇槍]!!」
今度こそは。そう意気込んで放たれた魔法はしかし、右腕を対価に躱された。
もう使い物にならないと判断して捨てたのだろうが、大した判断能力だ。
関心も束の間、そこそこの距離が離れているにもかかわらずコボルトはその場で腰を落として拳を構えた。
何をする気だ?
そんな疑問に答える者は当然いないが、嫌な予感が頭をよぎった。
だが、それはもう時すでに遅し。
体全体を包んでいた銀色のオーラが左拳に集中する。
そして、綺麗に型をなぞったように放たれた正拳突き。
普通ならば届くことのないそれは銀のオーラが拳を形作り俺目掛けて放出された。
「ぐっ、カハッ」
想像よりも遥かに速いその攻撃を避けることは出来ず直撃する。
骨がメリメリと悲鳴を上げ、内臓まで潰されるような痛みを感じ、気づいたら体は宙を舞っていた。
ゴロゴロと無様にも地面を転がり、患部を抑えるが、痛みは引いていかない。
『自己治癒』によって少しずつ治っていくのは感じられるが、完治するまであのコボルトが放って置いてくれるとは考えられない。
急いでカバンからハイポーションを取り出して、一気に呷る。
すると傷が一瞬にして塞がった。
驚愕に目を見開くがそんな暇も惜しいと瞬時に意識を切り替える。
壁際まで吹き飛ばされていた鈴華ももう立ち上がっていた。
その傍にあるからの瓶を見るに彼女もポーションを使ったと推測できた。
MPは節約していくスタイルらしい。
コボルトを見るとさっきよりも更に銀色のオーラが勢いを増しているように見える。
『しぶとい奴らだ。さっさと死ね!!』
歯を剥き出しにして威嚇してくるコボルトだがもう今更その程度で怯むほど弱くはない。
ステータス画面を開いて残りのMP量を確認する。
まだ七割程度の残量はあった。
これなら連発しても問題はない……はず。
右手をシルバリーコボルトへ突き出し、唱える。
「[遅延][影沼][影縛]からの[闇槍]!!」
三つの行動制限系の魔法を掛けてからの最高火力。
更にそこに『王者の威圧』を加える。
『グガァッ、アアァァァァ!!』
直撃、後に絶叫。
『咆哮』でも使ったのか鼓膜を揺らす轟音を撒き散らし影による拘束を引きちぎり暴れ狂う。
これなら、いけるかも知れない。
そう思った直後。
――俺の視界は銀色に染まった。




