『銀気解放』
綾辻の視線の先。
そこには校庭のど真ん中でいくつもの死体に囲まれながら銀色の体毛を靡かせて佇むコボルトの姿だった。
ゾクっと背筋が凍る感覚に陥った。
「あ、いつ……は」
隣を見ると鈴華はその体を震わせ、綾辻は俺たちの様子を見て首を傾げている。
そういえば綾辻は知らないんだったな……あのコボルトのことを。
『鑑識眼』をかけて能力を盗み見ると以前よりも更に一つレベルが上がっていた。
ステータス
――シルバリーコボルト
状態:憤怒
職業:――
レベル:29
固有スキル
『銀気解放』
スキル
『体術』Lv.13
『縮地』Lv.10
『咆哮』Lv.10
『威圧』Lv.9
『剛力』Lv.6
『人語理解』Lv.5
魔法
――
やっぱり固有スキルを持っていたか……。
前は『鑑識眼』のレベルが足りずに見えなかったが、今回はそうじゃない。
だからこそ、前回の戦いは相当手加減されていたんだと実感する。
やはりまだ、勝てない。
そう直感的に悟った。
「二人とも、逃げるぞ」
直ぐに呆然とコボルトを眺めて動かない二人の手を取って走り出す。
正面から出るのは危険だ。
「鈴華、この学校に正門以外に出口はあるか?」
「え、あ、はい。えっと、確か裏口があったはずです」
「よし、じゃあ案内頼む――っ!!」
突然体に重しでもつけられたかのような重圧に襲われた。
もしかして、気づかれたのか!?
その威圧感と共に一階の昇降口のあった場所からバゴォッという破壊音が何度も何度も聞こえてきた。
『ガアァァァァァ!!』
更に鼓膜が破れそうなほどの咆哮が耳を刺激する。
「くそッやばいぞ、近づいて来てる」
俺の顔に焦りが浮かぶ。
そしてそれは鈴華と綾辻にも伝播する。
破壊音はドンドンと近づいて来て、遂には――。
下の階からこの階を隔てていた床をブチ抜いて現れた。
瞳は酷く充血し、遠目からでは分からないほどだがその銀色の毛は薄汚れていた。
『きさ……まらがやったのか?』
シルバリーコボルトは問いかける怒りを滲ませたその声で。
勿論俺たちは何を問いかけられているのかわからない。
「何のことだ?」
『しらばっくれるな!! 私の住処を散々なまでに荒らし回り、遂には我が宝物まで持ち去りおって!』
話を進めるごとにその怒りの形相は激しさを増し、体からは銀色の蒸気が噴出し出した。
これがこいつの固有スキル『銀気解放』というやつなのだろう。
「俺たちはそんなことはやっていない。何かの間違いだ!」
俺は必死に弁解を試みる。
が、しかしそれは叶わない。
『ハッ、白々しい。荒らされ場所には貴様の匂いがベットリと残っておったわ。……本当はもっと熟してから食らってやろうと思っていたのだが、もう辞めだ! 今、ここで貴様を食い殺してやる』
このコボルトがそうと決めつける決定的な証拠があったのだから。
怒りからかこの前のような若干の紳士さすら無くなってしまっている。
本当はこっちの方が素なのか、違和感はない。
それにしても、本当に心当たりなんてものは無いんだが、相手がやる気満々である以上戦うという選択肢以外あり得ないのだろうな。
そもそも、こいつからは逃げられないのだから。
俺は即座に戦闘態勢を整え、魔法を発動する。
「[影縛]」
この内に鈴華は剣を構えて俺の前に躍り出る。
綾辻は俺の更に後ろに下がって銃を構える。
『グガァァァァァァア!!』
咆哮。それと共に影を引きちぎる。
思わず耳を塞いだ俺達にコボルトは間を詰める。
最初に復活したのは鈴華。
振り下ろされようとしていますコボルトの剛腕にタイミングを合わせて剣を振るった。
ガギィンと本来なら剣と腕が衝突した時にはなる筈のない音が響き渡った。
この時、俺と綾辻もやっと耳に残る違和感から解放された。
「くそがッ[遅延]更に[闇弾]!!」
[遅延]で行動スピードを制限、からの俺の持つ魔法の中でも速度重視の[闇弾]を放った。
だがしかし、そう簡単に当たる訳もなくヒラリと紙一重で躱されてしまった。
綾辻もこれに追従するように銃撃するも、何故か一発も当たらない。
チート染みたその動きに俺たちは翻弄されていた。
俺の口からはコボルトが攻撃を避けるたびに舌打ちが漏れ出ていた。
「くそ、どうすりゃいいんだよ。どうすりゃこいつに勝てるんだ」
焦りに焦り、攻撃が雑になる。
「先輩、冷静になって下さい!」
鈴華の言いたいこともわかっている。
焦れば焦るほど勝てる確率が低くなっていくことは分かってる。
俺は深く深く、一度だけ深呼吸をする。
肺一杯に空気を吸い込んで、それを全て吐き出す。
これでさっきよりは冷静になった――多分。
そんな事よりも今はこの状況を打破出来る作戦が、戦略が、戦術が必要だ。
その為に冷静にそして的確に現状を見極めていく。
やっぱ戦闘シーンは筆が進みますねぇ。




