呪い
「死ね!!」
鈴華は血走った目で一人の男子生徒に襲いかかる。
対するその男子は武器も構えず狼狽えているだけ。
特に身長が高いわけではなく、体型もぽっちゃりしている気の弱そうな男子。
このまま何もしなければあっさり死んでしまうだろう。
俺はこの男子が死のうが生きようが別にどうだっていい。
だが、どうしてか今の鈴華は正気であるようには見えない。
あとでこいつを殺した事を後悔してももう遅い。なら俺がするべきことは――。
「ストップだ。鈴華」
俺は『透明化』と気配遮断を消して姿を見せる。
がしかし、鈴華が攻撃をやめる気配はない。
俺は[影縛]で鈴華を縛り付ける。
だが、鈴華はジタバタと暴れて俺になど目もむけずに男子生徒を睨みつけ、影から逃れようとする。
いつもの鈴華ならその程度では[影縛]から抜けることはできないのは理解出来た筈だ。
やっぱり、様子がおかしい。
俺は男子生徒の方に何かあるのかと『鑑識眼』を使って調べる。
ステータス
――山本 吾郎
状態:恐慌
職業:戦士
レベル:2
固有スキル
スキル
『絵画』Lv.4
『剣術』Lv.1
魔法
――
スキルレベルが上がったみたいで『鑑識眼』で見える情報が増えていた。
追加で閲覧できるようになったのは現在の対象の状態と固有スキルだな。
ご都合主義ばりのタイミングで出てきてくれた状態を見るっていう効果は素直に嬉しい。
ステータスを見たところ男子生徒の方には特に問題はないように見える。
じゃあ、と次は鈴華に『鑑識眼』を使う。
ステータス
――護城 鈴華
状態:狂化の呪い
職業:聖騎士
レベル:8
固有スキル
『守護障壁』
『強化狂化』
スキル
『精神耐性』Lv.4
『恐慌耐性』Lv.2
『剣術』Lv.6
『盾術』Lv.2
『頑丈』Lv.1
『危機感知』Lv.2
魔法
『光魔法』Lv.1
[小治癒]
[光源]
[閃光]
[光球]
――
状態の欄には狂化の呪いと表示されている。
しかも固有スキルが一つ増えていた。
まあそれはいいんだが、問題はこの呪いだ。
一先ず俺はぽっちゃり系男子生徒とその後ろの男女数名に声をかけることに。
「おいあんたら、死にたくなかったらさっさと逃げな」
「え、あ、う……」
だか、みんな放心したまま逃げ出そうとしない。
面倒な……。
「せん……ぱい、どいて下さい」
影で縛られた鈴華が瞳を鋭く細めながら声を出す。
辛うじて残っている理性でなんとか絞り出したようなそんな声。
「もう……抑えきれ、ません。早く……逃げて!!」
悲痛な叫びと共に鈴華の瞳から感情の色が抜け落ちる。
「ぅあああああああぁぁぁぁ!!」
そして彼女は自分を縛り付けていた影を素手で千切り捨てる。
さっきとは膂力が段違いに強化されている。
「綾辻、こいつらを連れて離れろ。足手まといを庇いながら今の鈴華と戦える気がしない」
「……わかった」
綾辻は鈴華を一瞬視界に入れると、心配そうな表情を浮かべながらも素直に俺の指示に従ってくれた。
「さて、本当これどうしよう……」
やはりいくら考えても今俺が鈴華の呪いを解く方法は思いつかない。
だが、いつまでも鈴華を暴れさせておくことも出来ない。
大人しくさせようにも[影縛]以外に傷も付けずどうにかする手段がない。
「しょうがない……か」
俺は手を前に突き出し、唱える。
「[影縛]」
[影縛]の魔法を発動させて一度動きを封じる。
そしてすかさずステータス画面を表示させる。
取得可能スキル一覧
・『雷魔法』
Lv.1
[静電撃](1)
[麻痺](1)
・『時空魔法』
Lv.1
[俯瞰](1)
・『魔力視』(1)
・『魔力感知』(1)
・『魔力隠蔽』(1)
・『魔力譲渡』(1)
・『MP変換』(1)
――
現在習得できる魔法とスキルの数々。
前回のレベルアップ時に使用していなかった2つのスキルポイントのうちの1ポイントを使って『雷魔法』の[麻痺]を取得する。
その瞬間、視線の先で鈴華が影の拘束を引きちぎるのが見えた。
「アァァァァァ!!」
理性の色をなくしたその瞳が俺を写し、握り締められたその剣が閃く。
「[加速][遅延]」
自身を加速させ、鈴華の動きを遅くする。
更に俺は『身体強化』まで使って振り下ろされた剣閃を躱す。
剣を振り下ろした状態で隙だらけな鈴華の懐に入り込み。
「[麻痺]」
さっき取得したばかりの魔法、[麻痺]を発動させた。
これは射程距離が短い代わりに当たればほぼ確実に相手を麻痺状態にして動けなくする魔法だ。
現に鈴華も倒れたまま一切体が動く気配を感じない。
このうちに呪いを解く何かを見つけないと……。




