情報の対価
「対価……ですか」
「そう、対価。私達が君達に教えた情報と同価値の対価を払ってもらうよ」
白川は出会ってから常に浮かべていた笑みを消し、厳粛な雰囲気を身に纏う。
「済まないね。私達も今を生きるのに必死なんだ。私達教員は親御さんから預かった生徒達を最後まで守りきらなければならない。その為にはこういう事もしなければならないんだよ」
「最初から、これが狙いだったのか。……それで、あんたは何がご所望なんだ? 言っとくが俺達は大したものなんて持ってないぞ。この前までは只の高校生だったしな」
もう今更この人に敬語を使う気にもならない。
鈴華に関する情報についてはありがたいが、やっぱり他人は信用できないという事を再認識させられた。
それに、その情報も本当の事かも分からなくなった。
「君達もここまで来たという事は魔物をある程度倒した事はあるのだろう? ならポイントの事も知っている筈だ」
「それが、どうした」
「君達が持っているポイント。全部置いて行って貰うよ」
それまで席に座ったまま一言も発する事が無かった教員達は立ち上がって俺たちを囲むように動く。
後藤も申し訳無さそうな表情を浮かべながらも止めようとはしない。
そういえばさっきの五人組の男達も言っていたな。
ポイントをくれとかどうとか。
「そもそも、ポイントってのは渡せるものなのか?」
「なんだ、知らないのかい? 残高のところをタップすると周囲十メートル以内の人間にポイントを譲渡できるんだ」
俺の疑問に意外とばかりに目を見開いて白川は応答する。
「これについての対価は要求しないであげよう」
まるで自分が寛容であるかのような態度だ。
心の器が広い奴はそもそも対価なんぞ求めないんだよ。
イライラが募っていく。
「それを断ったら?」
「はははは……力尽くで奪うだけだよ」
白川は突然笑い出したと思ったら今度は眼光を鋭く細め、睨み合う。
「なるほど……なら、俺達も力尽くで押し通させてもらおうか」
俺は『王者の威圧』を発動させ、綾辻は拳銃を両手に構えた。
自身から発せられるオーラが室内で広がりビリビリと空気が震えるのが感じられる。
「対価なんて求めずにそっとしていればよかったものを……。こっちはイライラしてんだ、死んでも文句は言うなよ」
強大な威圧感と共に放たれた脅すような俺の言葉に白川は顔をひきつらせる。
今ようやっとどれだけの力量差の相手に喧嘩を売ったのかを思い知った彼だが、今更止める事など出来はしない。
「か、囲んで一気に殺せ! 怯えることはない、数はこっちの方が何倍も多いんだ!」
若干上擦った声で命令を下す白川と戸惑いながらも忠実にそれに従おうと動き出す教師達。
それを冷めた目で見つめながら綾辻は拳銃の引き金を俺は魔法を唱える。
「[影鞭]」
サプレッサーによって可能な限り音を無くした二度の銃声。
その後に俺の魔法は放たれた。
直後、影の鞭によって三人程の教師が壁まで吹き飛ばされる。
綾辻の銃撃は正確に急所を撃ち抜き、その命を葬った。
「まだまだおわらねぇよ」
恐怖に顔を歪める残りの教師達。
そんなものは完全にスルーして再度魔法を唱える。
「[闇弾][闇弾][闇弾]」
三連続で放たれた[闇弾]は寸分の狂いもなく三人の教師の眉間を貫く。
その間、綾辻も二人の教師を片付けていた。
もうあと残るのは、白川と後藤の二人のみ。
「取り敢えずお前は死んでおけ」
過剰威力とも言える[闇槍]を発動させ、頭蓋を壊し貫く。
この時、もう俺のイライラは収まっていたがどうしても後藤には聞いておかなければいけないことがあった。
「ヒッ!?」
後藤は死屍累々の有様に腰を抜かして股を水浸しにしてしまっていた。
「本当のことを言えばあんたは殺さないで置いてやる……さっきの情報は本当か?」
「えっ……?」
自分は死なずに済むかもしれないというその情報に困惑して顔面をぐちゃぐちゃにしながら情けない声を口から漏らす。
「もう一度だけ聞く。さっきの、あの情報は本物か?」
「あ、あれは本当です! 本当に○○高校の近くで見たんです! だ、だから殺さないで下さい!!」
頭を地面に擦り付けて懇願する。
これであの情報の信憑性も少しくらいなら上がったかな。
俺は地面に擦り付けられている後藤の頭に[闇弾]をぶち込んで踵を返す。
「行くぞ綾辻」
流石の綾辻も俺の俺には少し引き気味だったが、あそこであいつを生かしておいても後でやり返しに来るかも知れないんだから先に殺しておいた方がいいだろう。
そんな風に頭の中で言い訳しながら来た道を引き返していく。
◆
「急ごう綾辻、運転は頼んだぞ」
「ん……頑張る」
校舎を出た俺たちのはさっさと車に乗り込んで後藤から教わった○○高校を目指して車を走らせる。
「綾辻は○○高校ってどこにあるか、知ってるか?」
「ん……聞いたことがある。確かここからはそんなに離れてなかった筈。多分二十分もあれば着く」
「そうか、なるべく早くしてくれ。いけると思ったらもっとスピードを出してもいい」
「……ほんと?」
俺の発言に綾辻の瞳がギラギラと光り出した。
「じゃ、早めでいくよ……シートベルトはちゃんとつけてね」
「えっ、ちょ」
車は俺が今まで乗ったことの無いような爆速スピードで走り出す。
Gのせいで体が椅子にひっついているような感覚に襲われる。
窓の外に目をやるとあっという間に景色が変わっていくのが見える。
ぶっちゃけ超怖い。
これで事故ったら確実に死ねる。
「おい、綾辻……ちょっとまっ――」
さらに加速した。
俺に何も言わせない気か?
なんとかGに耐えて苦言を呈してやろうと綾辻の横顔を見ようとする。
その時、俺の視界に一匹のコボルトが――。
「っ危ない!!」
その俺の呼びかけはもう遅く、綾辻が気付く前にコボルトと衝突。
断末魔の声を上げる暇も無く物凄い勢いでぶっ飛んだ。
そしておそらく、この車には更に凹みが増えたことだろう。
まだ動くかな、この車?




