捜索
「大丈夫か綾辻!」
鈴華には援護の必要がないだろうことを確認して綾辻の元へ向かう。
「ん……ちょっと……キツイ」
綾辻は所々に傷がつき、息を切らして肩を上下させている。
対するコボルトジェネラルは大振りな片手剣……いや、本来は両手剣なのだろうそれを片手で持ち、その逆の左手には分厚い盾を装備している。
鎧などの体を覆うものはないが、防御力が高そうだというのが分かる。
だが、ぶっちゃけ俺にはそれはあまり関係がない。
「俺が動きを止めたら、頼む」
「……わかった」
短い応酬。
だが、それが逆に信頼されていると思わせてくれる。
右手を前に突き出し、口を開く。
「[影沼]」
コボルトジェネラルの足元の影が沼となってその鍛えられた健脚を沈ませる。
無駄にデカイその体と手に持って離さない剣と盾の重さによって更に影の沼へと嵌っていく。
「……今!!」
綾辻は両手に持っていた拳銃を仕舞って肩に担いでいた狙撃銃を構える。
本来は遠距離からの攻撃に使う筈のそれをだった数メートルの距離にいる相手にぶっ放そうとしている。
人間であれば……いや、魔物であっても直撃すれば重傷は免れないだろう。
コボルトジェネラルは影沼から抜け出そうと藻搔くが、更に深く深く沈んでいく。
狙いを定めた銃口がコボルトジェネラルに向く。
そして綾辻はゆっくりと焦らすようにその引き金を……引いた。
サプレッサーが本来の銃声を搔き消し、パシュッという乾いた音と共に銃弾は射出され、着弾。
コボルトジェネラルは叫び声を上げる暇もなくその命を刈り取られた。
「ッシ!」
俺は思わず拳を握ってガッツポーズを決めていた。
綾辻の表情も達成感が見て取れる。
「やったな」
「ん……でも、狙いから外れた。本当は眉間を狙ってたのにちょっとズレた……」
こいつ上昇志向強すぎかよ……。
「あ、そういえば……鈴華はどうなった!?」
俺が綾辻の応援に行くまではほとんど互角に戦っているように見えた。
バッと鈴華のいた場所に体を向けるが……。
「あれ……?」
誰も、いない。
いや、剣で幾度となく突き刺されたのか身体中が穴だらけで血の池を作っているコボルトジェネラルが横たわっているのは見える。
だが、その相手をしていた筈の鈴華が――いない。
「鈴華?」
「どこ……行ったんだろ?」
綾辻も心配そうな顔で呟く。
辺りを見回すと体育館の扉に続く道に血の跡が続いているのに気がついた。
「……一人で外に出て行ったのか?」
「でも、なんで?」
綾辻はそう疑問を呈すが、そんなの俺だって分からない。教えてもらいたいぐらいだ。
「兎に角、鈴華を見つけよう」
俺たちは床に残った血の跡を頼りに進んでいく。
が、それも体育館をでてすぐ、道の途中で途切れてしまっていた。
「くそっ! 本当にどこ行ったんだ、あいつ」
「取り敢えず……車まで……戻る?」
焦りが出てきた俺に綾辻は冷静に提案する。
いや、別に綾辻だって冷静というわけではないのだろう。現にいまだって鈴華が何処かにいないか、とキョロキョロとせわしなく首を動かしている。
「そう……だな。もしかしたら車で待ってるのかも知れないし……な」
俺と綾辻は車を停めていた校舎の外まで出る。
しかし俺たちの希望が叶うことはなく、鈴華は其処にはいなかった。
どうしたものか……。
「鈴華……多分、歩き。だから、遠くには行けない……筈」
「そうか……たしかにそうだな。それならまだ近くにいる筈だな。取り敢えず、車を出そうか」
俺たちは車に乗り込む。
やはり、運転は自分でしたいのか綾辻は率先して運転席に座る。
「それじゃ……いく。シートベルトはした?」
「大丈夫だ。早く出してくれ」
ブロロロと鈍いエンジン音が唸りを上げる。
鈴華の居ない車内はいつもより静けさが目立った。
◆
出発から早一時間が経った。
まだ鈴華の痕跡すらも見つけ出せていない。
まず、鈴華が何処へ向かったのか。
それを考えるのに時間をかけ過ぎた。
そして俺たちの出した解はズバリ、親探し。
これは今日俺たちが掲げていた目的でもあった筈だ。
何を思って彼女が俺たちを置いて一人で出て行ってしまったのか……それは分からない。
俺たちに迷惑をかけまいとしたのか、それとも俺たちと居るのに嫌気がさしたのか……。
何はともあれ、それは本人に聞かなければ分からないことだ。
俺たちは鈴華が向かっただろう場所、最寄りの避難所まで車を走らせている。
あの中学校はもう既にコボルトキング達に占領されていたが、他はまだ無事かも知れない。
あの惨状をみて焦った結果、一人で親探しに行ってしまったのかも知れない。
もし、鈴華がいなくても目撃情報でも貰えれば御の字と言える。
――この時、俺たちは何も分かっていなかった。鈴華が何処かへ消えてしまった、その本当の理由を。




