コボルトの王
門をよじ登り、校内に入った後に『透明化』によって誰からも見えなくなった俺たちは校舎の中を探索していた。
一階の出入り口に最も近い教室のドアを開けようとした時、俺が扉に触れる前にガラガラと音を立てて開いた。
しかし、そこから出てきたのは人間ではなく――コボルトだった。
赤黒い液体を滴らせた片手剣を手に一匹のコボルトは何処かへと去っていった。
俺たちは無言でそれをやり過ごし、コボルトの出てきた教室の中を覗く。
すると――。
「こ……れは」
「ひどいですね」
教室中が血で赤く染まり、そこら中にこの学校の生徒と思われる人達の死体が転がっている。
ざっと見ただけで二、三十人はいるだろう。
全員、恐怖で顔を歪めたまま死んでいる。
となりの教室も覗いてみると、やはりと言うべきかこちらも既に手遅れ。
コボルトによって死に追いやられた後だった。
「どうしますか?」
姿は見えないが鈴華だろう声が俺たちに問いかけてくる。
「一旦、全部の教室を回ってみよう」
◆
一時間程で大体全ての教室を回ったが、生きている人間には終ぞ出会わなかった。
巡回でもしているのか、うろついているコボルトを数匹見た程度で、大した収穫はなかった。
「あと残ってるのは体育館……とかか?」
「ん……」
俺と綾辻はあの惨劇を見ても今更といった感じだったが、鈴華はそうでもなかったようでさっきから一度も口を開かない。
俺達は鈴華の手を引いて体育館と思われる場所へ向かう。
体育館の扉は全開にされており、そこを何匹ものコボルトが出入りしていた。
俺たちはそっとその中を覗き込む。
そこには――。
「何……だよ、あれ」
思わず声が漏れる。
それだけのインパクトがあった。
顔は見えないが鈴華と綾辻も驚愕の表情を浮かべていることだろう。
俺の視線の先には今まで見たこともないサイズのコボルトがいた。
更に、あのシルバリーコボルトには及ばないまでも強烈な威圧感を感じさせる。
そして、その隣に控えるように大柄なコボルトが二匹佇んでいる。
こちらも相当な強さであると俺の本能が告げてくる。
――戦ったら五、いや六割くらいの確率で死ぬ。もしかしたら勝率はそれよりも低いかもしれない。
早く逃げよう。
そう彼女達に伝えるようとした時――異変が。
コボルト達がこちらを凝視しているように見える。
何が起こった? と周りを見渡すと俺の視界には鈴華と綾辻が映った。
「あ、れ?」
『透明化』のスキルによって見えないはずの二人の姿。
それが今見えるようになったと言うことはつまり――。
「『透明化』が解けた!?」
そういえば忘れていた。
このスキルは時間制限があったのだった。
なぜこんな重要な事を忘れていたのか。
馬鹿すぎてものも言えない。
親玉らしきコボルトは頭を抱える俺を他所に威厳たっぷりに立ち上がり咆哮する。
空気が振動し、それだけで俺たちの鼓膜にダメージが加わる。
気づくといつの間にかコボルトの大群は俺達を囲んで武器を構えていた。
「これはもう……逃げられないな」
「やるしか、ないですね」
「ん……」
俺の額からは冷や汗が止まらない。
が、コボルト達はそんな心情なんてつゆ知らず、勇猛果敢に全方位から突っ込んでくる。
数は……まあ、数えられないくらいだ。
少なくとも百は下らない。
そこそこ大きい筈の体育館がコボルトで埋め尽くされるくらいだからな。
今回みたいな対大群の場合は俺みたいな魔法が使える奴の方が活躍できる。
例えば。
「[影鞭]」
で向かってくるコボルトをまとめてなぎ払い。
「[闇槍]」
で縦一列のコボルをまとめて串刺しにして。
「[帯電]」
で近づくコボルトを感電させる。
そうしていくうちにだいぶ数が減ってきた。
鈴華はまだしも、メインの武器が銃の綾辻は少し苦戦しているみたいだ。
そもそも、本来綾辻は遠距離からの狙撃でレベルを上げてきたらしいのでこういった戦い方は初めてのはずだ。
それを鑑みれば十分な健闘と言えるのかもしれない。
そんなこんなで粗方雑魚コボルトを片付けたところで漸く親玉らしき巨大なコボルトが重たい腰を上げた。
そして、それを守るように二匹の大柄なコボルトが前に立つ。
俺は三匹のコボルトに『鑑識眼』をかける。
ステータス
――コボルトキング
職業:王
レベル:18
スキル
『咆哮』Lv.3
『統率』Lv.3
『カリスマ』Lv.2
『大剣術』Lv.5
『筋力増強』Lv.3
魔法
――
ステータス
――コボルトジェネラル
職業:将軍
レベル:15
スキル
『威圧』Lv.2
『護衛』Lv.3
『剣術』Lv.3
『盾術』Lv.3
魔法
――
ステータス
――コボルトジェネラル
職業:将軍
レベル:15
スキル
『威圧』Lv.3
『護衛』Lv.3
『槍術』Lv.4
魔法
――
コボルトジェネラルなら、まあなんとかなったかもしれないが、コボルトキングがやばすぎるな。
しかも数の利すらも無い。
本日二度目の危機。
――さあ、どうするか。




