モンスタートレイン
「[影縛]、[雷球]! クソ、全く減らねぇじゃねぇか!」
俺たちはコボルトの大群に襲われていた。
いくら倒しても終わりが見えないくらいの大群に俺たちのHPもMPも奪われていく。
「先輩! 私が道を開きます、付いてきてください!」
そういうと鈴華は[閃光]を発動させ、コボルト達の視界を潰し、右手に剣、左手に銀色に輝く盾を携えて突っ込んでいく。
俺もそれに続いて走る。
体力の消耗が酷い。直ぐに息が上がり、肩で息をしながら前を進む鈴華に必死でついていく。
鈴華は前衛向きの能力値だからかまだ体力には余裕がありそうだ。
「うっ! くっ……」
俺の前を進む鈴華から苦悶の声が漏れ出るのが聞こえた。
服が切れ、血が滲んでいる。
「鈴華!」
「だ、大丈夫です! もうすぐ抜けます、ちゃんと付いてきてくださいよ!」
鈴華は横から振るわれた棍棒を盾で防ぎ、俺に攻撃がいかないよう自らに注意を集中させる。
俺は“死神の礼装”の気配遮断を使いながら魔法で鈴華をサポートしつつ進んでいく。
「ヤベェ、もうMPが……」
コボルトの大群は未だ居なくなる様子はない。それが俺たちの絶望感を煽ってくる。
――あぁ、なんでこんな事になってるんだっけ……。
◆
「先輩、この盾凄いです! 前のとは比べものにもなりませんよ!!」
「おお、俺のもすげぇぞ。 この指輪着けると魔法の威力が前より格段に上がってるのが分かる」
そうやってお互いに新装備の品評会をしていた――のだが。
「ん……あれは、なんだ?」
地面の揺れる音が聞こえる。
そして次の瞬間俺たちの目に入ったのはコボルトの大群に追われる男達の姿だった。
男達は全員三十代前後といったところだろうか、お世辞にも若いとは言えないくらいの年齢だった。
数は見た限り、五人。
それを追うコボルト達は数十、いやもしかしたら三桁まで届くかもしれない。
それ程までの大群だった。
これに巻き込まれたら死ねる。俺はそう判断したが、それはもう遅かった。
「た、助けてくれー!」
先頭を走る男が俺たちの存在に気づいてしまった。
それにつられて、他の四人の男達どころかコボルト達にまで俺達の存在を知られてしまった。
俺は小さく舌打ちした。
鈴華も苦々しい表情を浮かべている。
それにもかかわらず男達は助かったとばかりに喜色の表情を浮かべている。
これがネトゲでいうモンスタートレインってやつか……。
「鈴華、逃げるぞ」
俺たちは踵を返して、走る。
しかし、ここで鈴華のドジっ子属性が発動して石に躓いた。
「いたぁ!」
そして男達は俺達を追い越して――コボルト達のヘイトを俺達に向けさせた。
「ははっ! すまんな兄ちゃん達、あいつらのお相手頼むわ!」
男達は悪気も感じていないようで俺達にコボルトたちを擦りつけてから文字通り脱兎の如く逃げ出した。
「糞がっ!」
「……すみません、先輩。私のせいで……」
「いや、あれはしょうがない。起きちまった事はもう忘れよう。それより、こいつらをどうするか……」
俺たちは既に今まで見たこともないほどの数のコボルトに囲まれていた。
威嚇のつもりかグルルルァと唸り声を上げるコボルトたち。
しかし、今更その程度の威嚇にいちいち反応する事はない。
鈴華は剣を構え、俺はいつでも魔法を発動できるように準備はしてある。
一体のコボルトが抜け駆けするように飛び出てくる。
が、こういったときの対処は簡単。
ある程度速度が出てきたら足に影を縛りつけてやれば――簡単に転んで自爆する。
「まずは一体」
そのコボルトは勢いよく頭を地面にぶつけた。死んではいないだろうが暫く目を覚まさないだろう。
「次はどいつだ?」
こいつらが人間の言語を理解しているかはわからないが、取り敢えず挑発しておく。
すると、意味がわかったのかどうかは知らないが今度は五体位のコボルトが一斉に突っ込んできた。
「先輩は後ろに!」
鈴華は俺の前に立って盾を前に構える。
コボルト達は狙いを俺から鈴華に移して各々が手に持つ武器を振りかざすが、ガァンという硬質な音を響かせるだけに終わる。
見ると鈴華は全くダメージを受けた様子はない。それどころかコボルト達の方がダメージを受けているようだ。
――なるほど、シールドバッシュってやつか。
攻撃を受ける瞬間盾を突き当てた……のかな? よくわからんが。
「[闇槍]」
俺は困惑するコボルト達に魔法をお見舞いしてやる。
[闇槍]は高い貫通力を持って二体のコボルトを同時に突き刺し、消滅。
続けて[影沼]を発動させて五、六体のコボルトを一気に拘束する。
抜け出そうとするコボルト達は更に深く沈んでいく。
これは足掻けば足掻くほど沈んでいく悪魔的な魔法だ。
賢いやつなら気付くかもしれないが、幸いにもこいつらにそんな脳はない為、面白いほど嵌っていく。
俺は[影縛]と[影沼]を連発して鈴華がトドメを刺していく。
随分な数を殺した筈だが、まだまだ数が減っている気がしない。
だんだん俺も鈴華も焦りが出てくる。
少し調子に乗ってしまったからかMPの残量が気になり始めた。
「このままじゃ埒が開かない、どうにかして逃げるぞ」
俺は鈴華と背中を合わせて警戒しながら口を開く。
そのくらいの余裕ならまだ残っている。
「私が道を開きます。付いてきてください!」
鈴華は飛び出した。
「はぁっ!」
裂帛の気合いとともに横薙ぎに剣を振るう。
返す刀で更に攻撃を加える。
わらわらと群がってくるコボルト達にしかし鈴華は恐れている様子は見受けられない。
「[影沼]」
俺も鈴華に続く。
魔法を使って援護しながら鈴華の背中を追う。
一体づつなら大した力はないコボルト。
しかし、これだけの群れを相手にするとなると話は別。
「きゃあっ!」
鈴華がまともに攻撃を受けた。
死角から振るわれた剣が彼女の左腕に直撃したのだ。
ポタポタと赤黒い血が腕を伝って地面に落ちる。
そしてその瞬間、俺の頭は急速に冷え上がり――。
「[闇槍]」
そのコボルトを貫いた。




