命拾い
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『それ以外に誰がいる?』
シルバリーコボルト――面倒だな……銀コボルトはニタニタとした表情のまま喋りかけてくる。
まさか魔物が喋るなんて、考えたことも無かった。
『魔物にだって喋れる奴くらいいる。私のような希少種や高位のドラゴンなんかがそうだ』
「何で、急に喋りかけてきたりしたんだ? さっさと殺せば良かっただろ? お前なら直ぐにでも出来たはずだ。もしかして遊んでいるのか?」
俺は疑問を口にする。
時間稼ぎだ。
『遊び……か、そうかもしれないな。ここの奴らは弱いのが多すぎる。私を見ただけでみんな逃げていくものだから、まともに相手にされるのは久々だったからな』
銀コボルトは更に言葉を紡いでいく。
『さあ、まだ終わりじゃないだろ? もっと楽しもう』
銀コボルトは俺を誘ってくる。
攻撃してこいとばかりに隙だらけになって。
まだ、顔にニタニタとした表情を残している。
さっきの攻撃で新しい魔法の特性は理解した。
あとはそれを組み立ててなんとかあいつに勝てるよう努力するだけ。
できるかどうかは分からない……というかまあ、ほぼ無理だと思うが、もしかしたら一パーセント位は残っているかもしれない。
だから、取り敢えず、足掻く。
みっともなく足掻いて、俺も鈴華も生き残る。
戦術を頭の中で組み上げていく。
「[雷球]!」
更に二回、雷球を発動させる。
狙うは顔面。
しかし、そんな攻撃をあのコボルトが素直に受けるはずもなく、ヒラリヒラリとかわしていく、が。
『グッアアァァ!!』
銀コボルトの足には[闇槍]が突き刺さっている。
注意を眩しくて目立つ[雷球]に引きつけ、その隙に足を[闇槍]で攻撃、移動速度を鈍らせる作戦だ。
「まだ、おわんねぇぞ! [闇弾]」
何度も何度も残りのMPなんて気にもしないで打ち込んでいく。
銀のコボルトは足を怪我した状態にもかかわらず危なげなく避けていく。
俺は弾幕を張って銀コボルトに追撃を加えたいが、今のままでは当たりそうにない、という事で一工夫することにした。
『なに!?』
銀コボルトが驚愕の声を上げる。
今まで一直線にしか進まなかった[闇弾]が突如、方向を変えて向かってきたら多少は焦るだろう?
『どういうことだ、これは』
「さあ、どういうことだろうな」
俺は曖昧にはぐらかす。
マトモに答えてやる義理もないしな。
だがしかし、これの答えは簡単だ。
[闇弾]と[闇球]の使い分けだ。
[闇弾]は威力、速度が高いが、一直線にしか飛ばせない。
反対に[闇球]は威力、速度は[闇弾]に劣るが変幻自在に動かせる。
[闇弾]の弾幕に[闇球]を紛れこませた。
ただそれだけのこと。
でも、奴が分からないなら好都合。
このまま押し切る。
そうやって何度か攻撃は当たったものの、大したダメージにはなっていないように見える。
しかも、何処か手を抜いているような感じさえするのだから恐ろしい。
どのくらいたったかはわからないが、未だに鈴華は起き上がる様子はない。
気を失っているのだろう、ピクリとも動かない。
俺も今は優勢……のように見えるが、いつこの状況が覆るかもわからない。
『イイ、イイな、実にイイよ君。……名前は、なんて言ったかな?』
「何で俺がお前に名前なんて教えなきゃ何ないんだ」
俺は敢えて強気な口調で対応する。
『いや、特に意味は無い。ただ私が気になっただけで』
「……黒乃 新だ」
『ふむふむ、黒乃 新君……か。覚えたよ』
何でこいつに名前を教えてしまったのか……それはわからない。
でも、何となく教えておいた方がいい……そんな気がした。
『それじゃあそろそろ本気、だすよ』
「やっぱり、まだ本気じゃなかったんだな……」
銀コボルトは無言のまま、構える。
次の瞬間、今までのプレッシャーがお遊びに思えるほどの強烈な圧が俺を襲った。
無意識のうちにゴクリ、と喉を鳴らす。
勝てない。
そう、思ってしまった。
勝ち目何て、最初っから無かった。
銀コボルトは動く。
筋肉によって隆起したその脚が大地を蹴る。
消えた、と錯覚させる程のスピードで向かってくる。
もしかして、『縮地』ってスキルを使ったのか?
コボルトが迫る。
俺は内心滅茶苦茶焦りながらも魔法を発動させる。
タイミングを完全に掴み……。
「[影縛]」
脚を影で捕まえた。
あのスピードで急に脚を掴まれでもしたら物凄い勢いでコケるはず。
その期待して発動させた魔法は、俺の予想を裏切った。
銀コボルトはその魔法――[影縛]を強引に引きちぎった。
レベルが上昇したことで強度が増している筈の[影縛]でも奴を捕らえることは出来なかった。
なら、とレベル2の拘束系闇魔法[影沼]を発動。
しかし、これはあっさり躱されてしまった。
もう、後がない。
俺と奴との距離はもう数メートルしかない。
銀コボルトは攻撃のモーションに入ると更に加速して一気に俺との距離詰めてきた。
「くっ!」
思わず、目を瞑る。
ガァンと何かが金属にぶつかる音がした。
「鈴華!?」
いつのまにか鈴華は俺の前にいた。
銀コボルトの攻撃を盾で防いだようだ。
「[閃光]!!」
目を焼くような光が炸裂する。
「先輩、下がって」
鈴華の声に従って、後ろに下がる。
光が収まると、そこには目がまだ使えないのか瞼を閉じた銀コボルトが。
『まさか、そっちの女の子が出てくるとはね……予想外だったよ。あれで決める筈だったんだけど。……私は久々に闘ったものだから疲れてしまったよ。という事で、もう帰る事にするよ』
「は? ……帰る?」
まさかの一言に俺たちは目を剥いた。
「俺たちを……殺さないのか?」
『うん、君達の事は気に入ったからね。今はまだ殺さないでおく事にした。それじゃあ、また、遊ぼう……今度はもうちょっと力を付けてから』
そう言って銀コボルトは物凄い速さで去っていった。
「なん……だったんだ」
「さ、さあ?」
こうして俺たちは幸運にも命の危機を免れた。
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