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私の思い



 私が先輩と呼ぶその人の名前は黒乃 新。


 私の命を二度も救ってくれた、謂わば恩人だ。


 一度目はスーパーでコボルトの群れに襲われていたときだった。


 あの時は本当にキツかったなぁ。

 私は剣がそこそこ使えたからなんとかなったけど、他の人たちは能力値こそ高かったけれど武器なんて握った事もない人達ばかりで戦力にはならなかった。


 その分の私は頑張った筈だけど、みんなはそれも気に食わなかった見たい。


 調子に乗るな、とか色々言われたっけ。


 元々、この金髪と碧い目のせいで小学生の頃からいつも周りから距離を取られていた。


 高校に入ってからは、特にひどくなった。


 自分で言うのはなんだけど容姿はいい方だと思っている。

 そのせいか、男子から時々視線を感じる。


 女子の中にはそれ面白く感じないひとが多いみたいで、色んな嫌がらせをされた。


 わざわざ私に聞こえるくらいの声で悪口をいったり、靴や教科書を隠されたりしたこともあった。


 酷かったのは、彼女達が流した噂だった。


 曰く、護城 鈴華はビッチである。

 金さえ払えば中年のおじさんにだって抱かれるくらい尻の軽い女。


 曰く、護城 鈴華は過去に傷害事件を起こしたことがある。


 そんな、根も葉もない噂がクラス中、いや学校中に流れた。


 そのせいで何人もの男子生徒に呼び出されてヤらせてくれ、なんて言われたこともあった。


 勿論断ったし、噂も嘘だと言った。

 それでも引き下がる人はいるものでお金で釣ってくる人や強引に犯そうとしてきた人もいた。


 でも、幸い私は強かった。

 そのおかげで私の純潔は守られた。


 けれど、そのせいで過去に傷害事件を起こしたという噂の信憑性が増してしまった。


 調べればそんなことはないと言うのはすぐにわかる。

 だから先生は私に味方してくれた。


 でも、学校中の生徒の殆どは私の敵だった。


 学校にいるのも嫌になって、もう辞めちゃおうかな……なんて考えていた時にそれは起きた。


 ――世界改変。


 そう呼ばれている現象だ。


 これはラジオから入手した情報だけど、世界中のあらゆる場所に魔物と呼ばれる凶悪な未確認生物が突然現れて、それを倒すとメニューって言う不思議な画面が現れる。

 私も最初は何を言ってるんだろうって思ったけど実際この情報に嘘はなかった。


 ステータス、スキル。


 まるでゲームみたいなそれは世界の危機に神様が私達に授けてくれた生き抜く為の力なんじゃないかと思った。


 私は比較的恵まれている方だったようで優秀な戦闘系職業と固有スキルを持っていた。


 戦闘系の職業は五人に一人、固有スキルは十人に一人くらいは持っていたように思える。


 といっても、固有スキルも千差万別で同じものは一つもなかった。

 その中には優秀で強力なものもなれば、何に使うのか分からないようなもの、デメリットしかないような物もあった。


 地震の直後、魔物が学校に溢れかえって私達生徒の殆どは体育館に逃げ隠れた。


 けど、食料や水の問題もあって外に出なければ行けなくなった。


 そこでその場を取り仕切っていた先生の一人が戦闘職の者達でいくつかのグループを作って外から食料を持ってくるという提案をした。


 反対の意見も多かったけど、このままだと餓死してしまうということもあって、この案は可決となった。


 そして私もその作戦に参加することになった。

 といっても半ば無理やりだったが。


 私の入ることになったグループは私を入れて計六人。


 その中でも知っている顔がいくつかあった。


 私をなにかと目の敵にしてくるイジメの主犯格の厚化粧が酷いギャル系の女子。

 そしてその取り巻き。


 昔、私を襲ってきた小太り男子。


 その他は名も知らない人たち。


 正直言って不安だった。

 もしかしたら後ろから攻撃されるかもしれない恐怖が常に付きまとった。


 戦闘では全員足手まといだったけど、死なせるわけにはいかなかった。


 これで死んでしまえば、それが私の責任になるかもしれないから。


 そんなことになれば、私は学校から追放される。


 そうなれば私は一人。


 いくら古武術を習っていたって、こんな化け物達が跋扈する世界で一人で生きていけるとは思えない。


 だから必死で戦った。

 足手纏いを背負ったまま、殆ど一人で。


 そしてやっとの思いでスーパーまで辿り着いて、もう少し……なんて思っていたらコボルトの群れに襲われた。


 もう死ぬのかって思った。


 けどそんな時、あの人が助けてくれた。


 私はお礼をしたかったけど、要らないって言われちゃった。


 言葉遣いは丁寧とは言えないものだったけど、それでも全然嫌な感じはしなかった。


 このままあの学校にいるくらいならこの人に付いて行きたいって思ったけど、彼はいつのまにか走り去って行ってしまった。


 その後、スーパーでありったけの食料と水を持って私達は学校に戻った。


 もう夜も遅かったので、スーパーから持ち帰った食料と水の配給を受け取って、それを食べたらすぐに就寝しようとした。


 そして夜中のこと一日中戦っていたせいで敏感になっていた聴覚が私に異常を知らせた。


 目を開くと眼前には下半身を露出させた同じチームメンバーであり、昔、強引に私を犯そうと襲ってきたあの小太りの男がいた。


 はあはあ、と気持ちの悪い息遣いで私に近寄ってきた。


 驚いた私は今まで出したことのないような悲鳴とともに彼の顔面にグーパンチを炸裂させていた。


 私の悲鳴を聞いた生徒が続々と集まってきて事情の説明を求められた。


 私はありのままを語った。


 しかし、それは信じてはもらえなかった。


 この学校での私の地位はあの気持ち悪い男よりも下なのだ。


 私は必死のおもいで説得しようとしたが、女子――特に私を目の敵にしているあの女とその取り巻き達が私の方から誘ったのだと断言した。


 もちろんそんなことはない。


 しかし、噂のこともあり、私はより不利な状況に追い詰められた。


 そして待っていたのは学校からの追放だった。


 これ以上私が学校にいると全体の迷惑になる、というのが全校生徒の総意だった。


 抗議はしたけど当然受け入れられることはなかった。


 最初は当然家に帰った。


 でも家は魔物に荒らされた後だった。


 死体は見つからなかったからうちの人はまだどこかで生きているとは思う。


 だからお母さんとお父さんを探す為にあてもなく彷徨い始めた。


 何度となく魔物に襲われた。


 けれど一匹二匹程度の対処なら簡単だった。


 でも、十匹を超える狼の群れに襲われた。

 この時は次こそ絶対に死ぬと思った。


 剣を振るい抵抗しながらも、私はもう、諦めかけていた。


 でもまた私はあの人に助けられた。


 先輩――黒乃 新に。


 そして、私の話を聞いてくれた。


 私の気持ちを分かってくれた。


 初めてだった。


 こんな暖かい気持ちは。


 この時だろうか。


 私は先輩に人生ではじめての恋をした。








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