彼女と俺の自己紹介
「右、来てるぞ!」
「はい!」
後方で支持を出す俺に勢いよく応答した少女は持っていた剣を横薙ぎに振るって牽制する。
ガルルルゥというウォーウルフの唸り声を無視して再度構えをとる。
俺は少女の背後にいるウォーウルフを『影縛』で拘束すると指示を出して仕留めさせる。
少女は少しの躊躇いもなく剣を振るってはウォーウルフの命を狩りとっていく。
切り口から大量の血が吹き出ても気にした様子はない。
順応性が高いのか、もう慣れてしまったのだろう。
それからも俺が『影縛』で拘束、その後少女がトドメを刺すというスタイルで戦闘を繰り広げていった。
少女の視覚外の敵や反応が間に合わない時は『雷球』によって俺が対処したが、概ね彼女にトドメを任せていた。
十を超えるウォーウルフを殲滅し終えると、少女は肩で息をしながらも近づいてきた。
彼女は俺の目の前まで来ると数度深呼吸を繰り返し、口を開いた。
「あの、ありがとうございました! さっきのこともそうですけど、昨日のことも。貴方がいなかったらもう死んでいたかもしれません」
「いや、昨日もいったけど礼とかそういうのはいらないから。それじゃ俺はこれで……」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください!」
少女は踵を返して立ち去ろうとする俺の服を掴んで静止を求めた。
「なんで逃げるんですか!?」
少女は信じられないとばかりに叫びをあげる。
「いや、別に逃げるとかじゃないから……ほら、あれ……用事があんだよ。だからその手を放してくれ」
「じゃあどんな用事なんですか?」
うっと言葉が詰まる。
咄嗟に言葉が出てこなかった。
「用事……ないんですよね……」
「まあ、ないけど……」
ジト目で睨む彼女を誤魔化すようにそういえば、と質問を繰り出す。
「昨日はもっと人が多かった筈だが、なんで今は一人なんだ? 別行動をするにしても危ないだろ」
さっきだって俺が来なければヤバかっただろと苦言を呈しながら疑問を口にした俺だが、彼女は俯いて悔しげな表情を浮かべ口を閉ざした。
数瞬の沈黙。
それを切り裂くように彼女は顔を上げた。
そこには先程までの悔しげな表情はなく覚悟を決めた時の表情があった。
「あの……私の話、聞いて貰えますか?」
「えぇ……長い話はちょっと」
俺は苦々しい表情を浮かべるが、その瞬間少女はキッと目を細めて睨みつけてきた。
美人が怒ると怖いっていうが、たしかにこれはちょっと怖い。
「はあ、しょうがねぇ。話は聞く……けど、条件がある。俺はまだお前を信用していない、武器は全部預からせてもらうぞ。」
「わかりました、いいですよ」
少女は俺の出した条件に一切の迷いなく承諾する。
彼女が持っていた剣を預り、俺たちは倒した大量のウォーウルフの死骸をそのままに移動を開始した。
◆
「あの、ここは?」
「一応俺の拠点ってことになってる」
俺は彼女を連れては拠点と定めたマンションに一日ぶりに戻って来た。
「それで、聞いてもらいたいことがあったんだろ?」
俺は[収納]から麦茶を取り出し、部屋にあったコップに注ぐと、彼女に手渡しソファに座った。
それに習うように彼女も対面に座ると徐に口を開いた。
「昨日、貴方と別れてからあのスーパーで食料を調達してから学校に戻ったんです」
「ん……学校?」
「はい、ステータスのことはもちろん知っていますよね」
「ああ」
「私達は学校で生き残っている生徒の中でも能力値が高い戦闘系の職業だった者をいくつかのチームに分けて食料や武器なんかの調達に出ていたんです。まあ、所詮は数日前まで喧嘩もしたことの無いような人の集まりでしたからまともに戦えるのは極少数でしたけどね」
「アンタはその少数に入っていたようだけど、何かやっていたのか?」
「はい、一応古武術を。父がイギリス人なのですが、日本の侍に憧れていたらしく……。
最初は私も嫌々やっていましたが、今となっては習っていてよかったと思っています。
っと話が脱線しましたね……学校に戻った後、夜も遅くなっていたのでご飯を頂いて寝ようとしたんです。そしたら、同じチームの男の子が襲いかかってきて……それで、その驚いて咄嗟に攻撃してしまったんです」
「ふむ……それとアンタが一人でいる事とどう繋がるんだ?」
「攻撃してしまったことについては申し訳ないと思いましたよ。でも、でも……」
彼女は肩を抱いて小さく震えていた。
その碧い瞳に涙を溜め、絞り出すように喋り出す。
「こ、こわ……かったんです。だから、情けなく悲鳴なんか上げてしまって大事になって、そしたらお前の方から誘ってきたんだろって……言われて。違うっていったけどみんな信じてくれなくって。わ、私あんまり友達いなかったから……誰にも頼れなくって。それでお前はここから出て行けって……お前は風紀を乱すからって……」
途切れ途切れに会話は進み、俺は一つ質問する。
「そうか……それでお前は、そいつらをどうしたいんだ」
「どう……したい?」
「そうだ……謝って貰いたいのか、それとも殺してやりたいのか。お前はどうしたいんだ」
俺は彼女に選択を迫る。
ここで彼女が俺と同じ復讐の道を選ぶなら手伝うこともやぶさかではない、だが、そうでないなら――。
「わ、たしは……私は見返してやりたい。私を捨てた事を後悔させてやりたい! 復讐がしたい!」
彼女の返答は俺が望んだものだった。
「そうか……なら俺がその復讐、手伝ってやる。その代わりにお前も俺の復讐に付き合え」
「はい……わかりました」
その後、俺の復讐についての説明を終えると
彼女は蓄積された疲れのせいか、倒れるようにソファの上で眠りについた。
◆
「う、……んぁ。……あれ?」
少女はまだ意識が覚醒していないのか辺りを見回し、今の状況を確認しようとしている。
「ここは……?」
「おはよう、ようやっと目を覚ましたな」
俺は彼女のトラウマを刺激しないよう自分に出来る限りの優しい声で話しかける。
「あ……そういえば、そうでした。すみませんみっともないところを……」
「いや、いい。それより腹が減ってないか?
飯の準備はしてある」
「え、と……頂いてもいいんでしょうか?」
「ああ、遠慮はするな。一月分くらいの余裕はあるからな」
「それじゃあ、ご馳走になります」
少し申し訳無さそうにそういう彼女を連れてリビングへ移動する。
その中央に置かれたテーブルにはカレー、豚カツ、サラダ、スープ、と計4種の料理が並べられていた。
「これ、貴方が作られたんですか?」
「ん、まあな」
「すごい……美味しそうです」
ありがとう。そう礼を述べると席に着くように促す。
「じゃ、いただきます」
「い、いただきます!」
食材に感謝しながら手を合わせて食前の挨拶。
そしてまずはカレーに手を伸ばす。
それに習うように彼女もカレーを口に運ぶ。
「おい、しい。これ、美味しいです!」
もしかしたらお母さんのよりも美味しいかもと零す彼女にそういえば、と俺は手に持っていたスプーンを置いて口を開く。
「お互い自己紹介がまだだったよな」
「あ、すみません。忘れてしまっていて、私の名前は護城 鈴華っていいます。高二です。父親がイギリス人で母親が日本人のハーフです。私のことは好きに呼んで頂いて構いません」
「それなら、鈴華と呼ばせてもらう。そっちの方が呼びやすそうだしな。俺は黒乃 新、高三だ。俺も名前の方は好きに呼んでくれていい」
「じゃ、新先輩でいいですか?」
「ん……なんで先輩なんだ?」
「だって、年上ですし……その、言ってみたかったので」
「まあ、いいけど……」
もじもじと頬を赤らめてそういう金髪美少女には俺も勝てなかった。
俺自身、そういう呼ばれ方が嫌ではないというところもあったが。
むしろ、ちょっとだけドキッとしたまである。
「じ、自己紹介も終わったことですし、食べましょっ! せっかくのご飯が冷めてしまいますよ!」
恥ずかしさを紛らわす為か少しだけ声が大きくなっている少女――鈴華に同調するように俺もスプーンを持ち直し、カレーを口に運んで行く。
やはり、ご飯は一人よりも二人の方が美味かった。
この時点で俺はもう彼女に心を開いていたのだろう。




