第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百九十五
―――兵站の構築について、メイウェイを交えた『会議』は続く。
学生たちは緊張していたものの、すぐに慣れ始めていたよ。
さすがはエリートであり、戦場に自ら向かおうとしただけはある。
とっくの昔に覚悟は決めていて、自分たちの力を使いたがっていた……。
―――もちろん、出せるようなアイデアを彼らはそう持ってはいなかったけれど。
状況分析の能力は、ソルジェよりも上かもしれないからね。
乱世を勝ち抜くための兵站の会議、吸収しているだけでも有益だ。
彼らにもその兵站を担う『官僚役』になって欲しいし、その能力は十分にあるから……。
―――ソルジェたちの会議は、メイウェイを交えることで直近の目標にも変わる。
帝国軍の反撃に備えつつも、兵站の拡張も考えるべきだったからね。
こちらの戦力は十分だが、とてつもない長距離の強行軍で疲れてはいるんだ。
この地に残る帝国の兵力が、結集して攻撃を加えてきたら負けていた……。
「幸い、混乱が見られる。シドニア・ジャンパー少尉への期待が外れたことで、帝国軍の指揮系統はマヒしていると言えるだろう」
「君は優秀な会計将校ってだけじゃないみたいだぜ。明らかに、軍事的なカリスマもあった」
「過去のものだろう。私が詐欺師だと、お前らが広めてしまったからな」
「居場所を奪ってしまったから、居場所を与えようともしているのさ」
「どうして、そこまで信頼を得ていたのだろうか。少尉の階級では、さすがに珍しいことだが」
「優秀な人材は『十大師団』に吸い上げられている。ろくな人材がいないから、私でも目立ったんだ。それに、傭兵を抱えていたことも期待される要因にはなっただろう」
「なかなかの戦力ではあったからな。あいつらを上手く戦場に投入されていたら、こっちも負けていたとは……言わん。だが、掘る墓の数は爆発的に増えていたよ。君の思想に基づけば、この結果は良かったか。死者の数は、減ったはず」
「傭兵も、お前たちに大勢殺されてしまったが……戦場での死の数に比べれば、マシ、だったのかもしれないな……」
「その種の性格は『十大師団』向きではないが、末端の兵士たちは共鳴するのかもしれない。彼らは故郷から遠く離れ過ぎて、モチベーションを失っている。死ぬほどの価値や名誉を、もう戦争には持てていないのだ」
「北方野蛮人のオレからすれば、その考えは全く分かってやれない。とはいえ、共感は出来なくても理屈は分かる。帝国兵たちにとって、ここは命懸けで守るべき土地ではないんだな」
「そうだ。彼らの貯金も、少尉殿のせいで消えているかもしれないのだから」
「文句を言うなよ。そのおかげで、結束が破壊されている」
「では、さらに活躍してもらおう。この地図を見てくれ」
「……『トゥ・リオーネの地』の、地図か」
「君がこの土地での兵站も仕切っていた。となれば、オレたちもそのルートを使わせてもらうべきだ。一気に、各都市の解放および……帝国軍基地の襲撃をするために」
「戦争になれば、目がキラキラと。ガキのような残酷さだな」
「ストラウス卿も、言わずもがな私も、それが仕事なのだ」
「分かっている。協力はする。私にも、帝国打倒の筋書きは見えた。姫さまの理想を、追求させてもらおう」
「では、筆を君に。インクをつけておこうか?」
「いらん。それは紳士的なサービスではなく、ただのウザさだぞ」
「手厳しいな。才女に対して、愚かな振る舞いだったかもしれん」
「……国境沿いに、拠点を多く作っていたのですね」
「そうだよ、ロロカ・シャーネル副社長。私は、やはり毛色が悪くてな」
「密輸業者と、結託していたのですね」
「その通り。連中のビジネスにかける衝動は、侮りがたいものがある。帝国軍としては、犯罪者を使う行為は嫌っているものの、私は実利を優先する悪い会計将校だったからね」
「帝国軍の正規のルートも、使いにくさがあったのか?『ペイルカ』を掌握していたマイク・クーガーは、君の姫さまの政敵でもあった」
「少佐は私のような不誠実な女は嫌いであったものの、仕事に私情は挟まない。それが、彼の美徳でもあるが、一種の限界でもあったな」
「冷徹な評価だね。私は少佐の著書のファンだが……彼は、天才ではあったんだぞ」




