第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百九十四
―――皇帝ユアンダートも、『プレイレス』の人々と同じように優秀さを警戒した。
『十大師団』の将軍たちの実力を考えれば、当然とも言えるけれどね。
この優秀過ぎる将軍たちを管理するために、ユアンダートは兵站を掌握する。
官僚と会計将校たちによって、その全貌は隠されていた……。
「賢くはある。しかし、やはり帝国は巨大になり過ぎているとも感じるぞ。『十大師団』を重宝している割には、信じていないなどと。将軍を信じられない国というものは、脆さを持つものだ」
「いかにも、そうだろう。その結果、お前たちに負けている」
「思えば、メイウェイも冷遇されていたぞ。ユアンダートは何を考えているのか」
「奪った国の管理は、本来ならば帝国本国から派遣された帝国貴族がするものだ。アインウルフ将軍が統治すれば問題なかっただろうが……メイウェイは天才軍人だが、貴族ではないからな。帝国の官僚からすれば、狙いやすい相手だったのさ。皇帝ユアンダートも自分に近しい貴族が動けば、妨害もしないものだ。そういう力学を突いて、知的な強奪者は動く」
「―――ああ、実際その通りだったよ」
「メイウェイ、ようやく来たか」
「遅くなってしまったらしい。だがな、ストラウス卿。これでも、多忙なんだ」
「分かっているさ。任せ過ぎてしまってもいる」
「こちらの女性が、シドニア・ジャンパー少尉か」
「そうだ。なかなかの暴れ馬だが、優秀極まる」
「敬意を示せよ。協力してやるのだから」
「……兵士の給与を掠め取った会計将校であることは忘れがたい。しかし、優秀さは認めよう。盗み聞きするつもりはなかったのだが……私の甘さも、再確認できたよ」
「兵站を会計将校や役人に掌握されていたことを、もっと警戒して叩いておくべきったと思うぞ。会計将校であった私からのアドバイスだ」
「そうするよ。アインウルフ将軍が、私をイルカルラに置いた理由でもあるだろう。将軍閣下ご自身も理解はしていなかったかもしれないが、本能的に察しておられたか」
「イルカルラをお前が掌握してくれるかぎり、アインウルフは安心して突き進められたというわけだな。兵站を作ろうとしていたわけか、気付かずにやってしまうあたりは、アインウルフらしい。読めないところがあるが、それこそが強さか」
「将軍の期待に、応えられなかった自分が恥ずかしくもある」
「雪辱は果たしつつあるぜ。『トゥ・リオーネの地』を解放し、王になれ」
「……目指すよ。まずは、統治者あたりからだ」
「メイウェイさん、帝国軍に動きはありますか?」
「今のところは大人しいものだよ。『パンジャール猟兵団』の、竜による追撃が効いている。今夜の報復攻撃は、小規模なものになるかもしれん」
「ゼファーの背からも、見えたものがある。北からの戦力増強は、思っていた以上に多そうだぞ。ドゥーニア姫は、『プレイレス』を信じてくれたか」
「彼女の護衛の兵まで、削ってくれている……私だけに、戦利を得られてはたまらないと考えただけでもあるだろうがね」
「動機に多少の違いはあったとしても、結果は同じ。帝国軍を倒して、『プレイレス』もイルカルラの軍も、前進させやすくする。帝国を倒すためにな。言わんとすることは分かるだろう」
「分かっている。歓迎してあげたよ、『ペイルカ』の兵も、イルカルラからの援軍もね。イルカルラの巨人兵士諸君は、いくつもの港を奪い取ったようだ」
「ドゥーニア姫という女は、お前たちより兵站について詳しいかもしれないな」
「彼女はオレやメイウェイと異なり、幼い頃から女王になるように教育を受けていた存在だ。軍の指揮では負けるつもりはないが、政治的なセンスは彼女の方が我々よりも強い。イルカルラで補給の乏しい状況で戦ってきた点も大きいだろう」
「英才教育による素養を、兵站を極めなければ、生き抜ない。一切の余裕がない現場を経て、真の教養に変えたとなれば……面白い存在ではある」
「槍を交えれば、好奇心は消えるよ。彼女の軍は結束が強い。砂漠を……追いかけ回されながら戦えば、結束も強まる。これについても、私は経験があるのだ」
「頼り甲斐のある援軍が来たというわけだ。オレも後から会いに行こう。奪った港の利用法も決めた方がいいだろうからな!」




