第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百九十一
―――シドニア・ジャンパーは、生産性に対して興味は薄そうだからね。
彼女は略奪・搾取型の思想の持ち主であって、単独での創造性はあまりない。
でも、チームで動けばかなりの強さを持つことは確かだったよ。
ロロカが期待しているのは、そういう側面なのさ……。
「戦略的なお付き合い、か」
「連携しましょうってことですね。そっちの方が、お互いのためになるでしょうから」
「監視するつもりかな、私を」
「そこまで露骨なものじゃありませんけれど。でも、いっしょに行動した方が双方の利益にはなるでしょう」
「正しい道に、近づけと」
「ソルジェさんの言葉は、合理的だと思いますよ。善や悪で推しはかるべきではない力も、正しさというものはあるものです」
「アタマでっかちになりすぎても、兵站は回らん」
「はい。流通もそうですよね。だから難しさもあるけれど、面白くもあります」
「強者だからこその、余裕だろう」
「今のところは、そうですね。でも、帝国を過小評価する気はありません」
「当然だ。そんなことをしている余裕は、お前たちにはない」
「私たち、ですよ。『こちらサイド』に、少尉も来たんですからね」
「協力する、か。何をして欲しい、ロロカ・シャーネル」
「じゃあ、ちょっと悪いことをしてみたいですね」
「どんなことか、当ててやろうか?」
「ええ。あなたの性格を推し量るためのテストにもなりそうですから」
「書類の偽装だろう。帝国軍の兵站ルートを、『ストラウス商会』のような商人ならば利用したいはずだぞ」
「正解です。具体的に欲しいのは、『プレイレス』周辺の兵站網。帝国軍のそれはまだ生きていて、再建および再編しようと動いています。あなたの書類偽装があれば、私たちが奪いやすい場所に帝国軍の物資を運べるかもしれません」
「もちろん、やれるぞ。帝国軍の兵站は、とても有能ではある。この無能な辺境侵略軍どもでさえ、兵站ルート自体は一級品だ。私がデザインに関与してもいるしな。しかし、略奪か」
「略奪じゃなくて済むのなら、さらにありがたいですけれどね。たんに騙して利用できるのなら、仕事の肩代わりだってやれそうですし」
「寄生するわけだ。帝国軍の兵站に、お前たち『ストラウス商会』が運ぼうとしている物資を運ばせたい」
「はい。ユニコーンの輸送能力や、『ストラウス商会』自身が創り上げた通常の馬や、牛さえも使った輸送能力は有能だという自負はあります。でも、使えるのなら敵の輸送能力を利用してみたいので」
「敵を使って、ビジネスをさせる。なかなか、嫌なことを思いつくじゃないか、眼鏡のディアロス商人よ」
「あら。一般的な商慣習でもあるでしょう。ライバルの会社だって、上手に使いこなせば利益を生み出せますし」
「それで。『プレイレス』周辺の帝国軍兵站に、何を運ばせたいんだ?」
「可能ならば、何もかもですけれどね。どこまで、あなたは兵站を騙せますか?」
「やろうと思えば、何もかもだろう。十大師団クラスが徹底していく状況では、何もかもが混乱している。本来、私はとても多忙な身の上になるはずだった」
「会計将校たちは、あちこちで大忙し、というわけですね」
「書類のチェックも、ずさんになっているよ。違反者を出したとて、構わない。どんな不正で掠め取られても、気にはしないさ。そんなこと気にしている以上の緊急事態ではあるからな。まあ、騙せるだろう。騙せなかったときは、戦闘になってしまう。お前らのお得意の略奪だな」




