第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百八十九
―――ソルジェはドゥーニア姫への手紙を書きつつ、近くにいる女を見た。
嫁たちじゃなくて、シドニア・ジャンパーだよ。
テントのなかにいる彼女には、自由と好奇心がある。
『余剰生産物で矢を作る』こと、それは会計士官にとっては興味深いようだ……。
「君も、同じようなことを考えた日があっただろうか?」
「……ないとは、言わん。やろうとは思わなかった」
「だろうな。帝国には、不可能だ」
「その通り。亜人種の協力など、得られるはずもないからな……」
「だが、君はとっくに『こちら側』なんだよ。才能を発揮してくれる現場が生まれたな」
「私を信用するのか?だとすれば、お前は愚かだぞ」
「知っている北方野蛮人だぞ。賢明なヤツなんて、そういるもんじゃない。オレは間違いなく違うよ」
「それで、私にどうしろと?」
「アドバイスだな。全般的なアドバイス。オレよりも、君の方が物流だとか、兵站については得意分野だろう。帝国軍を支えてきたんだ」
「ユアンダートが作ったのだぞ、基本的なデザインそのものは」
「大したヤツじゃある。それは認めるよ。クソ野郎で、殺すけどな。軍事的な天才ではあった。しかし、オレは最近になって感じることもある」
「何を、感じていると?」
「ユアンダートの限界と、帝国軍のほころび。ヤツはカリスマがある皇帝だろう。しかし、無限ではない。色褪せた。老いた……あるいは、疲れただ」
「敵の弱体化に、期待をしていると?」
「まあ、な。強い敵は好きだ。しかし、死人の数を減らしたくもある。そのために、力を貸してくれるかい?」
「……敵からも、買え」
「ほう。いいアイデアだな。つまり、帝国の支配地域からも矢の素材を買う」
「そうだが、それ以上も。帝国軍に卸している、材料商人。それと、倉庫だな」
「倉庫、か」
「大量に商品を扱う以上、倉庫は必ず必要になる。帝国軍の兵站は、広大かつ長大であるものだからな。雨に打たれる日も、物資の輸送には不可欠だ」
「馬車がいつでも空とは限らんしな。倉庫、風雨を防ぐ仕組みは絶対か」
「お前らも先んじて買っておくといい。奪っても構わんが、帝国軍用のビジネスに使うフリをしておくと、より多くを得られるぞ」
「耳寄りな情報そうだな。具体的に言ってくれ。詐欺についてはシロウトでね」
「『自由同盟』の人間族、そいつに商人のフリをさせる。まあ、実在の商人ならば、なおのこといいが……とにかく。帝国軍の兵站ルート近くにある倉庫を買わせるのさ」
「帝国軍のための、倉庫として使う予定と嘘をつくわけだ」
「そして、銀行から金を借りる。銀行があるようなちゃんとした町を、帝国軍は狙うからな。ビジネスの仕組み……土地に根付いているそれを利用するためにだ」
「なんだか、銀行にはなじみがある」
「金を借りさせるんだ。帝国との仕事は割りがいい。銀行も喜んで金を貸してくれる。銀行が金を貸せないなら……帝国軍そのものから借りてもいいぞ」
「ほう。ちょっと、難しそうな犯罪だな」
「カンタンだ。帝国軍は金がある。余っているほどに。兵士の給与も、軍郵便が集めて運用している。貸したがるぞ。しっかりと身分を装うことが可能なら。お前らの暴力で、適当な商人一家を皆殺しにして奪い取って、なりすます」
「暴力的だな。そういうのは、君の趣味じゃないんだろ?」
「由緒正しい商人、あるいは帝国軍の侵略戦争で成り上がった商人を装うといい。帝国軍の侵略ルートは爆発的な消費が伴う。およその職業で、金儲けができたはずだ」
「オレは肉が好きなんだ。だから、肉屋を装うのはどうだろうかな。広大な牧場を持っているか、あるいはそれと契約しているブッチャー……精肉で稼いだ肉屋が、倉庫業に興味があるってのはどうだ?肉を帝国軍に差し入れすれば、借りれるのでは?一流の肉屋らしく精肉した絶品であれば、目利きほど騙せるんじゃないだろうか」




