第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百八十八
―――世の中というものに、歴史は長く広く粘り着いてくるから厄介だよ。
どんなに状況が変わろうとも、過去が重くのしかかっている。
歴史は二元論をもたらしやすくて、善や悪の極端な分け方をした。
決めつけてくるのさ、過去のせいで隣国同士殺し合うのはよくあること……。
―――そんなときの解決策も、いくつかあるものさ。
一つの強烈なコンセプトが、実利を追い求めること。
世の中の争いの理由もまた二つだけ、善や悪ではなく政治力と金だからね。
賢い学生は、ガルフ・コルテスに近しい発想をしていく……。
「実益で結び付ければ、『プレイレス』とイルカルラも協力は可能なはず。『余剰生産物』で弓矢をより多く作ることだって、合理的な判断だから……」
「ふうむ。そこまで気にしないと、なかなか仲良くやれないものなんすね」
「はい。私たちの親世代あたりは、イルカルラを警戒している。奴隷を奪われただとか、奴隷が王朝を作ったことに嫌悪感があったりだとか……巨人族の王朝なんて、そうありはしないものなのに……まあ、その、ありえないことが健全なのかは分かりませんけれど」
「巨人族さんたちは、基本的に平和主義者が多いらしいっすからね。戦闘ではとっても頼りになるっすけれど」
「賢く、理性的で知恵が利き、何よりも単純に戦闘能力が高いですし」
「平和主義者が多いのも、問題ってガンダラさんは考えているっぽいっすけどね」
「……言いなりになっている巨人族も、正しいとは思い難いですよね。でも、敵になると、正しさは消える。争いごとは善や悪で物事を判断しがたちで、善や悪って……すごく移ろいやすい。正しくない善も、悪と呼び難い悪もある……世界は、とても不完全だ」
「考え過ぎも、良くないっすよ」
「ですね。少なくとも、金融網と農民の不満を抑える策で誘えば……平和裏に協力関係を広げられるかもしれません。戦況は、とても……ややこしくはありますが。それも、同盟の安定には作用するかもしれませんし」
「メイウェイさんが、勝ちすぎたってことっすか?」
「ええ。天才将軍の面目躍如というか……」
「強い仲間は、とっても心強いって考えでいいはずっすよ」
「……ですね。まったく、私も『王なき土地』の悪癖に囚われている」
「『優秀な方は警戒される』っすね。王さまを本当に怖がる価値観なんすね」
「滑稽なほどに。『プレイレス』は自意識が高いので。他国より、すぐれてないと居心地が悪く感じてしまう。『王なき土地』という政治体制に誇りを持っているはずなのに、カリスマ的な女王や将軍に『王なき土地の優位性』がひっくり返されるのが怖い……自意識過剰です」
「悪いことばかりじゃないっすよ。自信がある方は、頼りになる仕事をするものっすからね!」
「はい。カミラさんがそう評価してくださるのならば、私は実力の発揮を目指すとしましょう」
「では、ロロカさんところに向かうっすよ」
「ストラウス卿の奥様で、『ストラウス商会』の……副社長さまか」
「とっても賢いので、あなたともお話が合うはずっすよ」
「ふう。緊張しますね。大陸最強の物流企業かもしれない会社の、実質的な経営者……まあ、だからこそ、あれほど大胆な策でも、私たち学生に振ってこられるのでしょうか」
―――ロロカは切れ者だけど、のんびり屋な部分もやはりどこかある。
今は集中力を『プレイレス』周辺全域における、流通と兵站再構築に働かせていた。
『プレイレス』の学生が、隣国に対しての特殊なコンプレックスを抱くなんて。
『大したこと』と考えていないんだよ、大雑把な部分も確かにあるよね……。
―――だけど、これは自信の表れでもあった。
ソルジェの名前を使えば、最終的にどうとでもなるという合理的な判断だよ。
ロロカ・シャーネルも、ディアロスの戦士らしく力の信奉者でもあるからね。
ドゥーニア姫よりソルジェの方が、政治力の総和では強いのさ……。
―――そんなロロカのテントの周りに、人々が集まり始めている。
カミラと学生たちだけでなく、ゼファーに乗ったソルジェたちもだった。
鉢合わせする形になり、学生たちは緊張したらしい。
『特許管理人』くんも自意識過剰と、英雄と王へのコンプレックスが出ていた……。
「と、いうわけでして……っ。す、ストラウス卿っ。カミラさん……カミラさまに、雇っていた者です」
「ああ、オレからも銀貨30枚追加しておこうか」
「い、いえ。カミラさまからいただくので大丈夫です。それよりも……」
「手紙だな。書くとも。親書というものになるのかね……『未来のガルーナ王より』と名乗っておこう。ドゥーニア姫は、背伸びやハッタリを好む。君も、その点をよく考慮しておけ。己を大人物だと信じていられる者でなければ、彼女に呑まれてしまうぞ」
「は、はいっ!了解しました、ストラウス卿!!」




