第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百八十六
「では、どうぞっす!」
「『特許管理人』としての私には、いくつかの大きな交渉能力を発揮出ます。ドゥーニア姫が求めていそうな技術を提供できる立場と言えますね」
「ドゥーニア姫は、何を求めているっすか?」
「確実にあるのは、お金です」
「それは、そうっすね。ドゥーニア姫は、イルカルラの商人たちを納得させたがっているっす。でも、そこで……特許?」
「『プレイレス』の銀行網と、ストラウス卿が結託しているかのように、私は振る舞うことが可能になります。『特許管理人』は、基本的に特許の権利をもとに各都市での産業の独占権利を得ますので。職人たちを作って、くだんの錬金薬を作るために、銀行からお金を借りることになる」
「う、ん。ちょっと、難しそうっす」
「まあ、ドゥーニア姫から見れば、ストラウス卿の『特許管理人』は『プレイレス』の銀行とつながるための入口に見えるってことです」
「それは、すごく……ドゥーニア姫は喜びそうっすね」
「ええ。彼女が合理的で、商魂たくましいのであれば、出資したくなるかもしれません」
「儲かりそうっすもんね。でも、実際は……」
「まあ、その。私に実際、そんな権利があるわけじゃないですが。あくまでも、私の能力を高く見せるためのもの……でも、やっていいならストラウス卿に巨万の富をもたらせられると思います」
「すごい自信っすね。でも、特許……それを上手く使うと、そんなに儲かるっすか」
「ええ。ストラウス卿の持ち込まれた錬金薬だけでも、かなりのものです。都市国家だらけの『プレイレス』のあいだでは、特許のルールを破ることは、ほとんどありえません」
「そうなんすか?その、勝手に作っちゃうことだって?」
「技術的には可能です。でも、『プレイレス』でそれをやると追放か処刑に値することもあるんです」
「つまり、大罪なんすねっ」
「はい。都市国家が違っていても、職人や錬金術師の『発明』が守られる。たとえ敵対している都市国家同士であっても、戦時下以外では尊重されます。戦時下でも、特許破りは慎重ですね。戦後の交渉で不利になることが多いので」
「『プレイレス』って、何だか法律をしっかりと守るところなんすね」
「法律でガチガチに固まっているのも、ときに弱点ではあるんですが。優秀な人材から社会が利益を得るために、特許の管理は重要視されてきましたね」
「……うーん、それを銀貨三十枚で雇ってもいいんでしょうか?」
「もちろん。実際に、くだんの錬金薬の特許申請などなど、私にお任せ下されば明日のうちにでも準備は完了できます……ああ、その。右腕を痛めているので、仲間に書類整理を手伝ってもらう必要はあるんですが」
「やっぱり、とっても優秀な人ってことっすね!」
「そ、そうですね。官僚を目指していましたので……っ。法律を使って、利益を出すことを研究してきまして……まあ、その、理論だけではあるんです。実際に、私が何かを発明したわけでもありませんから。ただ、ストラウス卿の持たれているであろう特許で、『プレイレス』のビジネス慣習から巨額を引き出すこと自体はカンタンです。だって、お金になるための材料が、すでにあるわけなので」




