第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百八十五
―――世界はいつだって、不完全なものかもしれない。
ヒトそのものが不完全だから、しょうがないのかも。
いずれにしても、カミラのアプローチはソルジェにとってありがたい。
優秀な人材には、常に声をかけておくべきだからね……。
―――ガルーナは大国になるだろう、軍事的にも技術的にもだ。
この戦争で作り上げつつある、国境を越えた商いのルート。
それを維持するための人材は、必ず見つけていかなくてはならない。
『大学半島』の学生であれば、打ってつけだ……。
「そうだ。ソルジェさまに、何かお願いとかあるっすか?」
「ストラウス卿に、お願い……ですか」
「そうっす。その、ドゥーニア姫との交渉をするにあたって!」
「交渉のカードがあれば、たしかに……ありがたいですよね。ギブアンドテイクこそが、外交の基本ですから……」
「何か、あるっすか?自分はソルジェさまのヨメのひとりなので、何かしらお願いをすることも可能っすよ。何でも、というわけにはいかないっすけれど」
「……ふむ。それでは、その。ひとつ、手っ取り早く外交用のカードを作るために、私を出世していただきたいかな、と」
「出世、すか。具体的に、どのように?」
「『大学半島』における『将来的な予算』の、管理者……あたりがいいでしょうか」
「将来的な予算っすか?それは、どのような……?」
「まだないかもしれない予算ですね。でも、いずれは積み立てていくはずです。『大学半島』においての予算とは、学術的な資産がメインですね」
「学術的な、資産……っすか……」
「つまり、具体的に言えば、ストラウス卿が提供してくださった錬金薬の知識などですね」
「なる、ほど。『メルカ・コルン』の方々の錬金術の知識」
「馬に対しての錬金薬、夏の暑さにへばらなくなる薬の調合方法を提供いただいているはずです。あれは、とてつもないお金に化けるものです。軍事的にも使えますし、副作用が少ないのであれば、民間ビジネスにも応用できます。そもそも、大学の錬金術科では、あれにまつわるどんな情報だって大金を支払いたくなります」
「なるほど。そういうのの、『管理人』さんみたいなのがいた方が、便利なわけっすね」
「ええ。そうです。つまり、その……ぶしつけというか、いきなりなのですが。私を、そのポジションで雇っていただけませんか?お給料は、とりあえず……銀貨30枚」
「激安じゃないっすか?その、それだけでいいように思えないっすけれど?」
「まあ、肩書きが欲しいんです。そうすれば、ドゥーニア姫とも交渉がしやすくなる。一学生に過ぎない、一兵士に過ぎない……そんな立場では、交渉能力が高いとは言い難いので。『パンジャール猟兵団』、ストラウス卿とのつながりがあれば、交渉しやすい」
「分かりましたっす。自分のお小遣いで雇うっす!」
「ありがたい。その、つまり名乗っても問題ないでしょうか?」
「はいっす。ソルジェさまには後で確認はするっすけど。必要な役目なのは自分でも分かるっす。そして、あなたは適任っすね。人望があるっすから」
「人望、というよりは、学生同士の討論会で強さがあっただけで……」
「十分っす。そもそも、戦場の最前線で人望があるような方は、『パンジャール猟兵団』の猟兵から好まれるっす」
「そ、そうなんですね。それは、そうなのかも。なるほど、傭兵ですもんね」
「戦場での信用は、とっても重たいっす。命懸けの信用は、金貨の山よりも重たい。あなたは間違いなくソルジェさまから気に入られるっすよ!」
「それは、光栄です。では、その……『特許管理人』の一人、ぐらいの身分で雇ってください。いつでもクビにしていただいても構いませんので」
「はいっす。でも、それは、ドゥーニア姫にどんな効果があるんでしょうか。後学のために、ちょっとご教授いただければ幸いっす」
「ええ。そうですね。それも説明した方がいいです。しっかりと、雇ってもらうためにも大切ですよね。雇っていただけるなら、私も実力を発揮したくもありますので。私の使い方を、アピールさせていただきます」




