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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千百八十四


―――カミラの予想は、おそらく当たるだろうね。

戦争のために労働力を駆り出された直後の農村に、年貢削減の報せは最高だから。

若き弁論大会の勝者は、このロジックならドゥーニア姫を納得させると信じる。

彼女は新米国主だからね、政治的基盤は盤石ではないと考えていたのさ……。




―――およそ新しい国王の最初の仕事とは、隣国への侵略戦争になりがちだ。

ドゥーニア姫も、その歴史のテンプレートを踏襲するかのように動いてしまっている。

『プレイレス』を侵略してはいないまでも、軍を率いてやって来ているからね。

事実上の入城までしているというか、なかなか緊張感が生まれても仕方がない……。




―――歴史の感情のもつれというものは、長大でどうにも解きがたいものだ。

百年どころか千年級の恨みもあって、それから自由になれるとは限らない。

それでも、政治基盤が弱いのであれば他者に頼ることもある。

農民の支持を得られることは、実のところ王族には重要な仕事だ……。




―――軍事的な物資の生産者は、基本的に農民なんだからね。

戦争のとき、農民に人気がない軍隊が勝利する確率はかなり少ないものさ。

ドゥーニア姫には、たしかにいいカードになるだろう。

もちろん、外交能力を幼い頃から育んだ彼女は容易い敵ではないだろうがね……。




「とにかく、その路線で仲間たちと話し合ってみます。ありがとうございました。剣どころか筆も持てないような役立たずな私に、仕事を下さって……カミラさん……いえ、ストラウス卿の奥方のひとりであられるカミラさまには、感謝の言葉が尽きません。いつか、何かで恩返しを……」

「あはは。そうっすね。いつか、助けてもらうこともあると思うっすよ。貴方はきっと、出世なさると思うっすから」

「そうでしょうか。そういう願望は、あったのですが……まあ、その、確かに。この任務を果たせれば、きっと出世の機会も得られるでしょう」

「うんうん。そういう方とお知り合いになっていると、きっと、ソルジェさまが将来困ったときの力になると思うっす。引き抜き、とかの対象になるかも」




「な、なるほど。ストラウス卿の下で、働く……」

「戦士というよりも、文官っすね。ガルーナ王国には、きっと、そっちの方が足りないと思うっすから」

「優秀な戦士だけでなく、つまり、軍隊だけでなく、政治的な集団も作りたいんですね」

「はいっす。錬金術師さんたちは、大陸で一番集まっている状況っす。それに、時計技師もいるし……文官、政治家をフォローしてくれる法律に詳しい方が少な目っす」

「国作りには、たしかにその種の力は重要ですよね。なるほど、他国に仕える」




「ああ。もしかして、失礼でしたか。引き抜きなんて、祖国を裏切れと言っているような側面もあった……ごめなさいっす」

「いえいえ、とんでもない。評価されたことは名誉なことですから。それに、『プレイレス』の都市国家においては、珍しくもありません。失態を犯した軍人だろうが政治家だろうが、だいたい都市から追放されますんで。流浪のタレントは、そこそこいるものです」

「『プレイレス』は人材が豊富だからっすかね。せっかくの貴重な賢者を、外に出してしまう」

「それも一種の社会病理があります。私たちの地域、つまり『王なき土地』にも欠陥があるのです。市民の誰かが、まるで『王』のような権力を持つことに、恐怖心があるのですよ」




「王さまはいたらいたで、便利だと思うっすけど?」

「『王なき土地』は、市民の話し合いで物事を決めるんです。それは、時間がかかるし、なかなか意見の一致を見ないことも多くて、ときどき非効率的ですが……私たちの存在意義のようなものであって、変えられないのです」

「つまり、『王さまは絶対に出しちゃいけない土地』だから……」

「『王さまになりかねない人物』は、ちょっとした失点で、追放されてしまうことだってあるんです。優秀だからこそ、なんですよね」




「土地が違えば、何でもまるっと変わってしまうこともあるっすね。また一つ賢くなれたっす!」

「私もです。農家の考え方や、『隠し畑』の存在なんて、想像したこともなかった。とても大切な要素のはずなのに……」

「何でもかんでも、すべてを考えていては辛いっす。それに、たぶん、無理っすから!」

「あはは。たしかに、そうです。どんなに優秀でも……ヒトは、やっぱり、弱いんですよね。王さまだって、農民の人気を心配する必要もある……『王なき土地』も、理不尽な追放が起きたりする。まったく。世の中は、やっぱりどこまでも不完全ものみたいだ」





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