第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百八十三
「やりましたっす。自分らのよーな、誰にも知られないうちに消え去ったような田舎の物語でも、お役に立てたなら光栄っすね」
「……その、ちょっと聞いて欲しい考えがありまして」
「それはいいっすけれど。自分のごとき田舎者に何を聞かせていただいてもらったとて、知的好奇心を満足させられるような言葉は出ないっすよ?」
「いや。その、言い方が露骨なのですが……より素直に物事を判断していただけそうな相談者が欲しいんです」
「よ、よくは分かりませんっすが。ど、どーぞ!」
「ええと。世の中には、およそ二つの仕組みがあると思うんです」
「ふ、ふむふむ?」
「ルールにより他者をコントロールする方法と、行動力で現実を変えちゃう方法」
「なんとか、ついていけているっすよ……っ。水裁判と、水路をぶっ壊したりすることっすね」
「はい。まあ、もっとポジティブというか、ある意味ではネガティブな……とにかく、ルールと行動ですね」
「了解っす。大丈夫っす」
「我々は帝国軍との戦いにおいて、より多くの弓矢を戦場に送り届けるために、他国の境界線を越えて『つながる』という方法を実現しようとしています」
「『各地の余りもの』で、弓矢を組み立てちゃえ……っていう、発想っすよね」
「そう。とても効率的だし、合理的なんですよね。懸念があるとすれば、『みんなに利益が出てしまうこと』」
「え、ええと。それって、何か悪いことっすかね……?」
「露骨に言えば、『搾取する権利』を手放さないといけないんですよね。水裁判が実現したとき、領主さまが不要になりつつありませんでしたか?」
「それは、そうかもっす。要らないっすもんね、領主さま」
「それはそれで、領地の所有者たちは困ると思うんですよ。極論、領主さまに『矢の材料』を渡さずに、『自由同盟』全体のビジネスに送ることで、その生産者はより多くを得られる。領主さまよりも、政治的にも経済的にも強い富豪が生まれて、彼らが……その、領主さまを殺して立場を奪うリスクもあるなあって」
「な、なるほど。自分たちの村の農夫が、めっちゃ高くお野菜買ってもらう都会の大商人と契約できたら……武装して、領主さまを……」
「そうなりかねないリスクに、『王なき土地』以外の……『王さまがいる土地』の方々って、どういうイメージを持つものかなって……私は、『王なき土地』の者なので、ちょっと想像がつかないんですよね」
「え、ええと。まあ、水裁判が生まれたときも、領主さまを敬う気持ち自体は、とくに減らなかったと思うっす」
「それって、どういう感覚なのでしょうか?不要な存在に対して、排除を……求めないものでしょうか?」
「う、うん。場合にもよると思うっすけど、残酷なご領主さま以外には、そういう感情は抱かないものだと思うっすね。みんな、その、新しいご領主さまになりたいという方々ばかりではありませんっすから」
「たしかに。私も代表者の名誉を、抱えるリスクの大きさのせいで遠ざけてしまおうとしています。リーダー……いや、支配者にも、それなりの重責はあるのですよね」
「はい。そんな感じっす!」
「しかし、領主側はリスクに思うかもしれません。『自由同盟』に領民がなびく可能性も十分にある……そうすれば、ルールを振りかざそうとするかも」
「なんだか、理不尽な法律を使われるってことっすかね?」
「それって、何だと思います?」
「……えーと……理不尽なルール、嫌な法律と言えば……年貢っす!」
「まさに、それです。年貢、つまり税金、それらを領主側は強めることで、富を得た者たちから掠め取ろうとするでしょう」
「うう。たくさん農作物が実るほど、年貢もパワーアップするっす……」
「そうなれば、農民たちはどう思いますか?反乱をして、『王なき土地』に変えてしまえ、なんてことを企みませんかね?」
「……うーん。反乱して、ご領主さまのポジションを奪うくらいはしそうっすけど。『王なき土地』は、何というか……ムズカシイ気がするっす」
「みんなの投票で、世の中が変わるって合理的だと思うんですが」
「賢い人たちが、一定数以上いないと無理そうっす。そういう意味だと、ほとんどの土地は向いてないと思うっすよ。賢い人たちは、どこの土地でも少な目っすから」
「なるほど。そうなのかもしれません。教育機関の多さは、『プレイレス』特有のアドバンテージですね」
「それに、ソルジェさまたちもそうっすけど。ご領主さまや王さまたちは戦のときは最前線に向かうっす。まあ、大国だと違うっぽいっすけど」
「帝国や、『プレイレス』の市長たちは、あまり戦場の最前線に赴くことが少なかったですね。皇帝が最前線で指揮を執ったのは、もう何年も前ではないでしょうか」
「最前線で戦うと、名誉は得られるっす。農民が結束しても、軍隊が味方についた王さまに逆らったとて……」
「なるほど。それは、そうだ」
「……でも。自分たち農民だって、褒めてもらいたいというか、ちゃんと稼いだ分のおこぼれは欲しいと思うっすよ。そうじゃないと、たしかにがんばれないっす!」
「やはり、両者を橋渡しする制度があった方がいいかもしれないですよね」
「それはそうっすね。そっちの方が、スッキリとがんばれるというか」
「王さま連中からすれば、反乱の芽を摘む方法……武力行使以外に」
「年貢っす。ぜったい、年貢!それ以外は、あまりピンと来ないっすもん!」
「ですよね。『年貢を下げればいい』。でも、一気にそれをやると王さまやら領主らには負担が大きい」
「ど、どうすれば?」
「帝国もやっている手段ですけれど、『戦時国債』の要素を使うといいかもしれません」
「え、ええと。帝国がアレっすよね?戦争で使うためのお金を集めるために、貴族とかに売りつけている?」
「そうです。それを農民の年貢に採用する。つまり、『戦争用の物資を提供してくれた者の将来の年貢を減額する』という権利を、見返りとして渡すんです」
「何っすか、それ。ぜったい、みんな、大賛成っすよ!!」
「戦争国債ですからね、『自由同盟』が帝国を破らなければメリットはない。だから、農民の皆さんも応援してくれるはず。しかも、領主や王への直接的な不満は、むしろ減る」
「年貢が減るって言われれば、完全にみんな笑顔っすよ!!とくに、このめちゃくちゃ暑い真夏に言われれば!!」
「え、ええ。そうだと思います」
「来年とか再来年の年貢がちゃんと下がるなら、『隠し畑』も解放するかもっす」
「なんですか、その、『隠し畑』っていうのは……?」
「おそらく想像がついておられると思いますが、年貢逃れをするためにご領主さまに黙って開墾した畑のことっす!!うちのような小さな村にさえ、たくさんあったので、各地にもたくさんあると思うっすよ!!」
「な、なるほど。そんなにたくさんあるんですね。領主や、役人たちも全てを管理は出来ていないと……具体的に、どれぐらいあったんですか?」
「ご領主さまが認識されている畑の、倍ぐらいはあるものっすね」
「ば、倍……」
「畑だけでなく、森や林に『隠れて放牧』するっす。豚さんやニワトリさんたちを」
「それは、見つけられませんよね」
「そうっす。きっと、どこの農家もそうやって年貢から逃げていると思うっすから。『提供した物資に応じて来年の年貢が減る』ことにしていると、近年の倍近くは集まると思うっすよ。今は夏なので、めっちゃくちゃモチベーションも増えると思うっす」
「それは、それはいい。領主たちも集まった物資を『自由同盟』に提供するだけではなく、『通常の貿易』にも使えるでしょうからね」
「とってもビジネス・チャンスで、農民にもご領主さまにもいいルールっすね!夏の暑さがハードなだけに、みーんな、とっても喜ぶと思うっすよ!!」




