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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千百八十一


―――学生たちは負傷者のなかから、メッセンジャーを選ぶことにした。

弁論部に所属する、政治に興味のある青年がすぐに推薦を集めたらしい。

ちょうどカミラに止血を終えてもらっていたよ、彼はそこまで重傷者ではなかった。

だが戦闘を行えるなどとは、言い難い状態でもある右腕がほぼ動かないからね……。




―――矢が刺さってしまい、前腕にある二つの骨の内の一つが傷ついている。

上手く矢は抜いてもらったし、縫合も止血も完璧ではあったものの。

戦場の最前線で鋼を振り回すには、どうにも無理があるのさ。

利き腕の負傷がひどいせいで、リエルの『ガイドライン』を執筆するのも無理だ……。




「その、なかなかいいお仕事じゃないっすか」

「それは、そうかもしれないけれど。私は、この戦いの最前線に立ちたかったんです。そのために、死ぬ気で……」

「ボクたちも君が、どんな意志のもとに作戦に参加したのかは理解している。でも、この役目に適任なのは、君ではないかと直感したよ。弁論大会では、大活躍だったじゃないか」

「うるさい。あんなものは、学生同士の茶番だよ」




「そ、それは言い過ぎだろ。みんな本気で挑むんだ。名誉あることだぞ」

「……悪い。言い過ぎたよ。でも、ちょっと神経質になってしまうのは、分かって欲しい」

「ああ。もちろんだよ。分かっている。だが、これもとんでもなく大きな任務だよ」

「理解はしているさ。あの、『イルカルラ』と……『プレイレス』との間にあるわだかまりを越えようというハナシだ。我々のあいだにある長い歴史を考えれば、あまりにも……」




「つまり、君は……」

「皆まで言わないでくれ。私は、たしかに……臆しているんだよ」

「そ、そうか。そうだな。大きすぎる任務じゃあるよね」

「当然だ。手術が終わって、いきなり……そんなハナシを持ち掛けられたら、誰だって驚く。いや、怖くなるに決まっているよ」




「しかし、能力を考えると、ますます君しか……仮に、君が負傷していなかったとしても、必ず君を候補にボクたちは選んだはずだよ」

「へー。とっても、優秀なんですねー!」

「優秀なんかじゃ、ありません。井の中の蛙大海を知らず……私は万能感に酔いしれていた、ただの小物に過ぎないんだ」

「う、うーん。なんだかムズカシイ感情を抱かれているようっすね」




「『イルカルラ』と『プレイレス』の関係性は、良好とは言い難くて」

「そうみたいっすね。戦いばかりの関係性だったと、聞いているっす」

「彼らは逃亡奴隷ですから。ボクたちは、つまり……」

「昔のことっすよ。変えられるタイミングがあるなら、試みるべきっす」




「知ってますか?悪いコトをしたら、謝るべきなんです。奴隷労働で酷使した歴史を持つ『イルカルラ』の方々に、私たち『プレイレス』人は謝罪や保証で報いるべきでしょう。でも、私はただの学生だ。政治的な謝罪や、国の感情を満たすような保証を約束できるような大人物ではありません」

「まあ、ドゥーニア姫さまも、そこまで望まれないっすよ」

「……えーと。まさか、ドゥーニア姫とお知り合いなんですか?」

「一応、お知り合いっすね」




「彼女は、どんな方でしょうか……」

「計算高い人物っすね。戦士としても、優秀っす。負傷した戦士に対して、きっと敬意を持ってくれるはずっすよ。彼女が女王になるために歩んだのは、壮絶な戦いと、周囲の方々の自己犠牲の道っす。あなたが戦場で見せた行為は、きっと彼女を納得させるっす」

「納得、ですか」

「語り合う権利があるのだと、ドゥーニア姫は理解してくれると思うっすよ」




「大した貢献も、出来なかったのに……?」

「戦士はみんな、そういうのを望むもんっすけど。誰もが、英雄的な評価を得られるものではないっす。でも、むしろ……誰かのために、こっそりと辛い道を突き進められる強さもあるっすよ。ドゥーニア姫の一番の家臣は、そんな方でしたから」

「どんな、方だったのでしょうか?」

「ドゥーニア姫のために奮戦して、彼女を英雄にして国をひとつにまとめるために、自分の命さえ差し出すような方だったっす。どれだけ世間から悪評を集めても、ドゥーニア姫のために……彼女が『強い女王』になれたら、『イルカルラ』という故郷が救われると信じての自己犠牲でもあるっす」




「偉大な方が、いたのですね」

「そうっす。自分が知る限り、大陸でも一番な献身的な忠臣っすね。ドゥーニア姫は、英雄になれなかった方の存在も、ちゃんと理解している。そして、とっても賢い方っす。道理に合うハナシであれば、絶対にちゃんと聞いてくれるっすよ」

「……過去を理由に、門前払いなんてことには?」

「ならないっすね。まして、ソルジェさまやロロカさんのお手紙を携えたうえで、そんな真似はしないっすよ」




「狡猾な方だというイメージが、強くもあったのですが……でも、そうですね。クレバーで、賢い……」

「幼い頃から苦労してきた方っすから。それに、弟さんもおられるみたいなので。ちょうど、あなたみたいな年齢の男子は、弟あつかいしてくれるかもしれないっすよ」

「それはそれで、交渉には有利と言えるのか……」

「まあ、交渉というよりもお願いっすね」




「歴史的な責任を、私に求められたら?」

「あなたにやれるだけのことを、するしかないっすよ。謝れるなら、謝ればいいっす。無理なら、別に向こうも望んではないはず。だって、あなたは学生っすからね。大きな責任を背負わなくてもいいはずっす」

「そ、そうですよね。私は、しょせん、ただの負傷した学生に過ぎないんだ……」

「だから、前向きに挑戦してみるっすよ。ダメだとしたら、ロロカさんや、最終的にソルジェさまの出番っすから。気楽にファイトっす!」




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