第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百七十六
―――リエルの言葉は、なかなかの難問だったようだけれど。
学生たちの知的好奇心をくすぐる効果は、あったようだね。
議論好きだし、自分たちから参戦した戦争を彼らも研究したがっている。
抵抗と忍耐の時代は終わりつつあり、今は逆襲と反撃の時期であるが……。
「シンプルに、数という視点で考えてみると興味深さがあります」
「ふむ。帝国軍は、基本的にとても多いぞ」
「ですが、『自由同盟』側の規模も、かなりのものです。とくに、『プレイレス』が所属した今となっては」
「そうであるな。かなりの人口だ。それに、『大学半島』は若い戦力の宝庫である」
「数的有利……つまり、帝国軍の圧倒的な数の多さというものが、揺らいでいるのかもしれません。まあ、これは、その……『プレイレス』文化特有の過剰な自意識の高さというものが影響しているのかもしれませんけれど」
「自意識の高さ、か。偉そう、というわけか?」
「ま、まあ、その。ときどき言われるんですよね。『大学半島』に行くと、ちょっと、思い知るときがあるんです。都市国家同士で、相手より自分のほうが『上』だと言い張ろうとしたり……とにかく、『素で偉そうになりがち』です」
「偉大な地域ではあるからな。千年も前から大国であったし、豊かな土地である」
「ですね。客観的に見ても、ずっと支配的な大国でした。帝国ほど直接的ではないものの、間接的な支配で、西の地域に影響力を持っていましたから」
「『トゥ・リオーネの地』だな。今まさにいる、この土地。大国の本能のようなものだろう。他国を影響下に置いてしまう」
「発展し過ぎると、戦争を仕掛けて国と潰したり……商取引でこちらに優位な条件で無理強いしたり……いいとか悪いとかの以前に、ヒトってそうしちゃうんですよね、多分」
「うむ。お前たちは自意識過剰……つまり、自分たちが『自由同盟』に加盟したことを、過大評価してしまうリスクがあると?」
「そうです。だから、その。そういうまやかしに走らないように……あくまでも数字に率直になってみたわけです。『戦争に使える人数』だけを、率直に」
「軍隊の数だけ、というわけではないな。そもそも、学生軍自体、非正規な軍隊であったはずだし、お前たちは『戦士』とも言い難い」
「はい。専門職の戦闘員ではなくて、ボクたちみたいなのは『即興の兵士』ってカンジですよね。一対一で戦えば、こ、怖くなるかも。殺し合いに対して、怯えそうになる」
「安心しろ。戦争と決闘はかなり違っているぞ。収穫祭に近い。だから、お前らも安心して殺せている」
「しゅ、収穫祭……そ、そうですね。お祭りや、収穫のときに集まったときの共同作業に、近しいのかも……」
「練習のときではいつも頼りにならん者でも、いざ戦となれば楽しそうに殺し合いをしているものだ」
「それは、それで。何とも……いや、でも、実際そうですね」
「戦は、楽しかったであろう?」
「……はい。すごく、楽しかったです。おそらく、勝ち戦でしたから」
「うむ。負け戦で喜べる者は少ない。根っからの戦士、傭兵、そのあたりは除いてだ。私も常識というものを学んだぞ。夫を持つ身だからな」
「す、ストラウス卿の……人妻、なんですよね、リエルさま……っ」
「人妻であるからして、常識を学んでいる。戦士の質を持つ者は、なかなか少ない。だが、兵士は違うのだ」
「はい。かなりの人数、いますよね。帝国軍そのものが証明してくれています。ほとんど人間族だけで集めた以上、兵力だって限定されるはずなのに、あの量です」
「兵士は、いくらでも集められる」
「そうです。専門的な戦士には、個の力では劣りますけれど。一斉に矢を放つだとか、槍を投げつけるなんて……ただのスポーツみたいなものですし」
「うむ。それを考慮すると、ますます……『大学半島』を含み、『プレイレス』全域の潜在的な兵士の数は、かなりのものか」
「具体的に、どれだけいるのかは分からないところがあります。その、亜人種奴隷だってかなりいるんですけれど。分からないほどいるというか」
「なかなか嫌なハナシではある。改善すべきところだな」
「私だって、そう思っていますし、改善の流れは生まれてます。今は、その。人数で」
「彼ら彼女らの数か。元・奴隷を戦士、兵士にするのはそれなりに経験があるぞ。復讐心が強いもので、対帝国には使える戦力だ。イルカルラの戦士たちも、巨人族の奴隷が建てたものであるし」
「エルフであるリエルさまは、嫌がられるかもしれませんが。その、『奴隷輸送システム』そのものは、まだ残っています」
「嫌なものではある。まったくもって大嫌いであるぞ。だが、しかし、そうであるな。視点を変えれば」
「はい。これ、思うんですけれど。帝国軍以上の兵員輸送システムや、戦力収集システムそのものじゃないでしょうか。それを、『プレイレス』が『自由同盟』に加わったことで、軍事力の増強に使えるわけです」
「おぬし、賢いな。さすがは学生である。」
「リエルさまが感じ取られた、戦いのポイントの流れというものも、この絶対的な戦力差という構図が壊れたことに関係しているかもしれません」
「うむ。そうかもしれない。それに、もう一つ、見つけたぞ」
「それは、何でしょうか?」
「戦士ではなく、たくさんの兵士を作るための教練の質……『教育』の力が、『大学半島』を仲間にしたことで強くなっているのだ」




