第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百七十四
―――中海の景色は、空から見ても絶景だったらしいよ。
夏の暑さに揺らぐ白波を見つめつつ、ククリとククルは考えた。
プレイガストの寿命は、どれぐらいもつのだろう。
数年とか、あるいは十数か月だろうか……。
―――祭祀呪術を使った影響は大きく、ぐったりとやつれている。
もともとの虜囚生活でも、かなり体力を失っていたわけだしね。
戦場は過酷なのだ、猟兵や『メルカ・コルン』のように誰しもが頑強じゃない。
ノヴァークだって死にかけていたし、死者が出てないだけで損害は大きい……。
―――並みの乙女なら、戦争の無慈悲さとか失う物のリスクを考えたかも。
だが、ふたりは『メルカ・コルン』だからそうは思わない。
どうすればより多くを、消耗から救えるものなのか。
森のエルフの秘薬は、錬金薬の効果をいくつかの面で上回っていた……。
―――錬金薬は完全に『何かを犠牲にして何かを得る』、というデザインだからね。
とくにメルカのそれは能力が高いものの、反動やリスクも大きくはある。
ただし、模倣については得意だという自負がふたりにはあった。
『森のエルフの秘薬』の、『劣化バージョン』を量産することは出来ないだろうか……。
―――プレイガストには、リエル手製の質の高い秘薬を使ってみればいい。
ふたりが考えていたのは、それよりももっと大規模な話題ではある。
プレイガストを心配もしているが、最善の方法を彼は受けられるのだ。
しかし、『自由同盟』全員についてはそういうわけにはいかない……。
―――錬金薬の量産はすでにやっているし、リエルの活動の結果もある。
寡婦や戦災孤児たちにしていた、薬草製造教室の結果だ。
薬草を煮詰めて、秘薬の劣化バージョンは作っているけれど。
負傷以外の特殊な症状、プレイガストのような疲弊もあり得る……。
―――リエルほどの薬草医なら、症状別に調合し直すはずだけど。
それをより簡易に、現場で使えるようにならないものか。
止血と造血の量産錬金薬でも、戦場での負傷の全てには対処できない。
帝国軍も呪術を使ってくるかもしれず、呪術の負傷も増えるかもしれない……。
「プレイガストさん、呪術で受けた苦痛を和らげるとか」
「治療効果を出すためには、どんな方法があるんでしょうか?」
「……基本的に、私は仕掛ける方の専門だったからね。それは、あまり考えたことがないものだよ」
「そうなんだね。でも、何かあるかな?」
「魔力をコントロールして、三大属性の法則で薄める、みたいな方法はあるのは分かりますが。それは、魔力を自在にコントロールできる人にしか出来ないんです」
「つまり、一般の兵士たちに使う方法を考えているんだね、ククリ殿とククル殿は」
「そうだよ。だって、ノヴァークみたいな子も出るじゃん」
「凡人みたいな戦士が、戦場で帝国軍の呪術師と遭遇するリスクが考えられるわけです。『自由同盟』が強くなって、帝国軍との本当の決戦に近づくほどに」
「ふむふむ。それは、そうだね」
「呪術は、魔力が弱すぎるから。魔術師だって、属性を読み間違えるかもしれない」
「だとすれば、属性ごとの魔力を増やすような薬だって、適当に使うしかないです」
「……呪術の属性を、より精密に測る方法を考えれば、良さそうだ」
「だよね。だと思う」
「そういう方法を、ご存じであれば。ご教授いただければ幸いです」
「さすがは、オレの妹たちだ!プレイガスト、オレからも頼む。何か、思いつけ」
「ハハハ。思いつけ、ですか」
「強引な男だな。プレイガストはいい呪術師だろうが、そんな方法、すぐに思いつけるものか?」
「シドニア・ジャンパー少尉、君が知っているのなら、教えてくれるとオレは嬉しいぞ」
「ない。知るか。呪術師というものは、基本的に攻撃専門が多いんだ」
「まあ、何となく、それは分かる。オレも、一応は呪術師の一員じゃあるからな。だが、専門家の知見というものは、頼りになるものだろう」
「それは、そうではあるが……」
「考えてみますとも。ククリ殿とククル殿、ストラウス卿からの頼みとあれば。何か、必ず。そうだな。守るための呪術……それは、確かに考えておくべきだ」




