第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百七十
「ガルフあたりも気づいちまいそうだ。何でも、詳しかったからな。年寄りらしく、動物だとか植物とかにも……オレも、そういう目線を、可能な限り鍛えるとしよう」
「イエス。団長は、ガルーナ王になるであります。『常人にも使える戦術と戦略』を、把握しておく必要もある」
「たしかにな。学者じゃなくても、植物や虫の違いにも気づけるヤツはいる。注意して見ておけば、その変化にも……畑を手伝ったことのあるガキ時代を送った者は少なくない」
「で、ですね。い、意外と虫の種類に詳しい人も、ときどきいますしっ」
「大陸の一部では、とくに南東地域には虫を愛でる文化まであるのです」
「ああ、『ゴルゴホ』の連中の発祥の地になるのかもしれん」
「『ゴルゴホ』と、面識があるというのか?」
「遠い北の地で、直接殺し合ったことがあるんだよ。君は、あの連中に興味があったのかな、シドニア・ジャンパー少尉?」
「都市伝説の類のような連中だ。幻の、特殊な医術を使う集団……実在していなかったと言われても、私は信じたのだが」
「いるぜ。少なくとも、外科手術に『蟲』を使う連中だ。普通であれば死ぬ傷も、治す」
「……世界に、その技術を広めるべきなのに。なぜ、隠れているのか」
「あれ。詐欺師のくせに、意外と良心的だよね、あんたってば!」
「ミア・マルー・ストラウス、私は合理主義者なんだよ」
「なるほどなるほど。従軍していれば、あんたでもたくさん戦友を亡くしているよね」
「そんな個人的な経験から来る感傷で、私は動かないのさ」
「何を言っているの?めっちゃくちゃ個人的な恨みで動いているじゃん」
「うるさい。姫さまについては、別なんだよ。とてつもなく長い演説で、教えてやろうか?その猫耳がしわしわに干からびるだろう」
「やだよーん。そんなの、お断りだー」
「ならば、黙っていろ。ガキめ。揚げ足を取るなど、下品だと知れ」
「はあ。子供相手にムキになるものではないぞ、シドニア・ジャンパー少尉殿」
「うるさい。とにかく私は、合理主義者なんだ」
「君のことを知れていい脱線になったな。さて、呪術についてのお勉強を再開しよう。『空白』の仕掛け方も、対処もそれなりには分かった。煮詰めて、戦略に利用したい。兵站部隊や奇襲部隊、待ち伏せなんかに使いたいんだ。今回みたいな上陸作戦をやれるなら、帝国軍との戦いもずっと楽になる」
「ええ。呪術師を確保できれば、『自由同盟』の強みになるかと」
「意外と、各地にいるからな。帝国に迫害されてるヤツも、勧誘してみていところだ。今日も、二人、確保できたし、やりがいのある目標だと思うぜ」
「オレと、少尉か。一応は、うん、呪術師でもあるな」
「しかも、詐欺師でアタマも切れる。犯罪を推奨する価値観は、オレにはないが。敵に対して有効な戦力としてならば、歓迎はしてやれる。いいか、ノヴァーク。二度とやるなよ」
「……ああ。分かってる。腹はくくってるんだ。少尉ごと、オレはあんたたちに合流するってね」
「お前の弟子は意外と、聞き分けもいいし切れ者だ。褒めてやれよ、師匠」
「ふざけるな。今日したことは、忘れん」
「う、うう。悪かったよ、少尉。でも、あんたの命を無理矢理にでも守るって決めた」
「素晴らしい弟子だ。愛されているな、おそらく女としても」
「ガキの相手は、本気でしないさ」
「そのうち、いい男になるよ。帝国が消えた世の中で、夫婦になるのも楽しいかもしれんぞ。『自由同盟』に協力してくれるほど、いい暮らしが手に入る」
「金など、誰かからもらう必要はないんだ。私は、無限に金を得られるのだからな」
「詐欺師のくせに、偉そう!」
「金があるからな。身分だけしかない、お偉い貴族どもより、私のほうがずっと偉大だ」




