第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百六十九
「ストラウス卿は魔眼の持ち主です、それゆえにこの種の呪術を見破る可能性は高い。そして、さらに言えば武術の達人であることも、『空白』の呪術破りには有効なのですよ」
「ふむ。どういうことだ?」
「『空白』は、完全な無ではありません。むしろ、その場にあるはずのものがないことで、世界に違和感を残してしまうのです」
「それに、武術の達人は気づきやすい?」
「ええ。『空白』は知的なものです。探索するとき、ヒトは集中しているものですからね。考えて、計画的に、探し出そうとしている」
「ああ。その集中に、『空白』は罠を仕掛けているわけだ」
「『空白』は集中するほど、気づけません。集中と思考するほど、むしろ『空白』は広がる。心と知性は、これに対して無力なほど弱いのですが……肉体は、別なのです」
「感覚に、違和感が生まれると」
「武術の多くは感覚を研ぎ澄ましています。知的な集中とは別の、ただ純粋な状況判断。呪術に気づくためには、ときに知性ではなく、肉体的な感覚、直感に頼ることも大切なのです」
「それは、私やお兄ちゃんが得意とする分野の気がするね!」
「おう!オレとミアは、あんまり賢くないからな!」
「と、というより、おふたりは武術の達人だから……っ。ぼ、ボクはどうでしょうかっ」
「ジャン殿の嗅覚呪術から、逃れられる呪術を使える者はそうはいません。コツは、同じ。考えるだけでなく、ときに考えることを捨てて、肉体が感じるままに違和感を探す。それで、貴方は十分に『空白』さえも無効化するでしょう」
「そ、そうですか。と、ときに、アホになるってことも大切なんですねっ。べ、勉強になります」
「アホになるって言うか、感覚重視モードってカンジだよね」
「でも、私たち『メルカ・コルン』は考え過ぎかもしれないとも思うから。危険じゃない程度に、見習うべきかも。見習い過ぎると、私たちの武器を失ってしまう」
「『空白』を知性で解くのは、なかなか難しいものですが、ククリ殿やククル殿の知性を使った呪術の解き方もあります」
「本当に、プレイガストさん!?」
「あるなら、教えておいてください。私たちだって、ソルジェ兄さんの役に立ちたい」
「とっくに、役に立ちまくってくれているんだがな」
「向上心は、善きものであります。私も、とっても賢い派閥の一員。団長のように淫らな肉欲と本能に率直なケダモノではないため、ククリやククルに有効な方針を使えそうな気がするであります」
「誰が、淫らな肉欲のケダモノなのか……」
「もちろん。団長であります」
「そうか。まあ、性欲の強さを褒められたことを誇るとしよう!」
「知的な方法で『空白』を破るためには、環境にまつわる知識からの逆算も可能。『空白』は動物や昆虫、果ては植物にさえ有効。あの漁村もそうですが、長く呪術が染み込み過ぎているために、生態系そのものに他と違いが出てしまっている」
「つまり、鳥や虫の種類が違っているとか?」
「左様。それらの生態系の歪みから、『空白』を見つけ出すことも可能でしょう。近隣とは異なる魚種まで、あの漁村では多く見られる」
「そこまでの影響が、あるんですね」
「通常の軍隊では、生物学的な知識など有してはいないものです。稀に、植物学者などが帯同している可能性もあるでしょうがね」
「あまりに高い確率では、ないであります。でも、ロロカやオットーあたりならば『空白』さえも読解しそうな気がするでありますから、注意点として記憶しておくべきです。ありがとう、プレイガスト。猟兵賢いチームは、またひとつ賢くなったであります」




