第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百六十七
「えへへ。物理学とか、錬金術はめちゃくちゃ得意なの!」
「でも、呪術はよく分からないところがあります。感情を使うものも多くて、そういうのはメルカ・コルンからすると、数少ない苦手なものになるんです」
「経験次第ではあるものの、たしかに、呪術には社交性あるいは、反社交性というものがいるものですな」
「は、反社交性って?」
「造語ですよ。しかし、伝わりやすいかもしれないと思って使ったのです。私のような復讐者や、そこにいる詐欺師少尉殿。社交性などと呼べるものはないのですが」
「お前と私を、いっしょにするなよ」
「犯罪性が高い人物は、社交性の前に社会性がないでしょう」
「なら、社会性のないと呼べ。私は社会構造の利用者だ」
「詐欺師は『信頼の逆説的な利用者』っていうのが、少尉の哲学なんだ」
「クズであります。社会性も社交性も、こいつには詐欺の道具」
「その通り。私は邪悪だよ。人命を多く殺す趣味はない点については、お前らよりもスマートな略奪者だ」
「す、スマートな略奪者……な、何だか、価値観が色々と違うってのは分かります」
「このように、感情など理解しなくても、ある意味で問題はない。むしろ、一種の素質にもなる。呪術は、不意打ちのようなものが多い。あまり正々堂々とした手段ではない」
「それを堂々とやれるのは、ある種の才能でもあり、強さだな。社会に対して気を使わないからこそ、攻撃性を発揮できるというわけだ」
「私に不満なら、解放してくれよ。女を殺す趣味はないんだろう?」
「傭兵コルテスに分析されていたか。否定はしない」
「イエス。団長は女に甘いところがある。しかし、そのために私がいるであります。逃がさないし、反逆も許さない」
「……やらないさ。ちゃんと、望み通りに動いてやる。未来永劫とは誓えないがね。プレイガスト、呪術の授業を続けてくれ。私だって、聴講者として楽しんでいるんだぞ」
「こいつに呪術の大切なところを教えると、危険かも!」
「そうだな。だが、いい呪術師が味方にいてくれると助かるんだ」
「では、『空白の霧』と呼ばれる呪術を、教えていきましょう。目と呼吸器と、肌そのものから吸い込まれる霧にかけるのは、極小の認識操作呪術。基礎的な呪術は、身を隠したり、物を隠したり、そのしゅの隠蔽に使われるものです。これもまた、呪術が流通する地域では、それほど珍しいものではありません」
「目くらましか。オレたちも、その種の道具は好んで使う」
「ええ。有効だからですね」
「そうだ。だが、呪術の目くらましは習ったことがないんだ」
「雄々しき戦士は、好まない手段でしょうか?」
「別の手段を、より多く使用しているだけだ。呪術で、その種の目くらましがやれるなら、オレたちだってそっちを使うかも。具体的な呪術のかけ方なんてものは、教えられるか?」
「ええ。もちろん。無学、とまでは言い切るつもりはありませんが。それほど学問に熱心とは言い難い漁村の年寄りエルフたちでさえ、マスターできたのですから」
「え、エルフの古老は、魔術の素質が高いから……」
「悲観することはないよ、ジャンさん」
「たとえジャンさんが嗅覚呪術以外に、才能がなかったとしても」
「さ、才能がない……っ」
「私たちやキュレネイさんは、呪術だっていつかマスターすると思いますから」
「役割分担だ。最強の筋力と、圧倒的な頑強さ。それがお前の最強の武器だろう、ジャン」
「は、はい。でも」
「ああ。もっと呪術を使いこなしたいんだな。オレと同じだ。とりあえず、聞いてみるとしようぜ。やれなくても、敵がやりやがったときの、対処のための知識にはなる」
「で、ですね。て、帝国軍にだって呪術師はいるわけですからねっ」




