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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千百六十六


―――ゼファーで海岸沿いを北上しながら、授業は進んだよ。

これはかなり有益な授業であり、呪術者と賢い者たちがいるのはありがたい。

ソルジェのような賢くない者とは違い、キュレネイと双子は完璧だ。

もちろんゼファーもだよ、『都市を隠すための呪術の霧』には興味津々さ……。




―――戦略的に『とてつもなく使える』のは、もちろんことだけど。

対ルルーシロアに使いたいと考えてもいるのさ、呪術の霧をね。

戦術として使っても、かなり興味深いものだろう。

空中戦の移動距離のなかで使えば、大きなチャンスを作れるかもしれない……。




「『呪術の霧』か。水気を、『風』で分散しながら……呪術を使う?」

「うん。メルカでは、長老が調合した錬金薬を頼るんだけどね」

「呪法錬金術ですな。さすがは、お二方の里の長老。長き研鑽を重ねた古老なのでしょう」

「あ、あはは。古老って言い方は、ちょっとアレかな」




「そう、ですな。女性に対して、配慮に欠いたかもしれない」

「配慮、ですか。長老が聞くと、とっても怒りそうです」

「そ、それは、重ね重ね……地下牢暮らしが長いせいで、言葉の使い方が下手くそになっているのでしょうな」

「まあ、ルクレツィアはその程度は気にしないさ。むしろ、知的好奇心をくすぐられるだろう。メルカの……その、呪法錬金術というものを強化できそうだと」




「うん。長老は、絶対にそうだ」

「『メルカ・コルン』は、『外』の世界へと旅立つことを選びました。でも、戦いのための力は蓄えないといけません。大切な人を全ては守れないかもしれない。けれど……」

「一人でも多くを、守りたいんだ。『メルカ・コルン』の一員として、強くなりたい」

「だから、プレイガストさん。教えてください。メルカは錬金術の知識はありますが、呪術の知識はおそらく貴方には負けるんです」




「『呪術の霧』において、必要なものは水分の管理。呪術は魔力ほど大きくはないが、魔力に依存した術ではある。水分……水については、いくつかの形態があるのは御存じでしょう」

「もちろんだ。さすがに、知っているぞ。オレでもな。液体、固体……『氷』、霧のような気体だな」

「左様。基礎的な物理の知識として、誰もが理解しているのですが。古代の『プレイレス』の賢者たちは、ひとつの予測をしておりました」




「ひとつの、予測?つまり……液体や固体、気体以外にもあるのか、水に?」

「ぜんぜん、想像がつかないや!」

「魔力を帯びたとき……というよりも、魔力で『極端な圧力』を与えたときでしょう。ガラス瓶すらも、融かしたそうです」

「何それ?ガラス瓶って、なかなか融けないよね?」




「つまり、これだね!」




―――ククリは水筒を取り出して、ペロリと舌を出した。

孤児たちの教師としての経験もあるから、実験を見せるのは得意なのさ。

ミアはじーっとその水筒を見つめ、ククリは魔力を器用に操った。

水筒のなかに集まっていく魔力は、水そのものに深く強くまとわりつく……。




「霧が、出てきた!すごい、すごい!」

「ふ、沸騰させているんですか?」

「違うよ。圧力をコントロールすると、常温でも気体に変えられる。でも、この実験の本題はこれからだ。こうやって、ミスリル製の針金を突っ込んで、ふたを」

「ふたを、しちゃった?」




「見てて。魔力を高めていくよ。それに、聞いていて」

「水の音、揺れてる音……」

「な、何が起きてしまうんでしょう……あ、あれ?」

「音が、聞こえなくなった!」




「えへへ。面白いものを見せるよ!はい、『熱い氷』!」

「何それ!?ヘンテコだー!!」

「そう。すごくヘンテコなの。あ。触っちゃダメだよ。すごく熱いの」

「じゃあ。このオヤツの干し肉を……すごい!!じゅーじゅー言ってる!!」




「『数百度の氷』も、作れはするんです。まあ、魔力の制御を解けば」

「うわー。あっという間に、霧になっちゃった」

「魔力の制御次第では、爆発もさせられるよ。というか、魔術ってこういう現象を使いこなしているの」

「すごい。私、自分でも知らない間に、それやってたのか……天才だ」




「そう。直感的に、物理現象を理解できちゃうの。子供って、すごいよね!」

「うん!なんだか、自分に自信を持てちゃう!」

「それで。実はもう一つ面白いことがあるんだよね」

「『熱い氷』以外に、まだ?」




「今度は、ククルの水筒を借りてやってみるよ。まず、こうして……『熱い氷』を作る」

「うんうん。それ、たぶん……私でもできるね」

「うん。ミアちゃんはとくに『風』の使い手だからね。真似するのはカンタンだろうけど、これはおそらくしたことない」

「『熱い氷』が出来たね。ミスリルの針金についてるけど……?」




「さっきは霧になってすぐ消し飛んだけど。これをさらに『風』で……『閉じ込める』と、こうなる」

「ふえ?ぐるぐる氷……ううん。水みたいな『うねうね』が、動いて……ミスリルが、融けてく!」

「そう。これが、きっと」

「ええ。私が説明したかった、固体でも液体でも気体でもない状態ですな」




「が、ガラスどころか、ミスリルを融かしたんですかっ!?」

「そうだよ。何でも融かしちゃうの。まあ、より正確には……物質の、ミスリルの『隙間』に侵入しちゃってるんだと思うの」

「なんだか分かんないけど、不思議ですごい!」

「そうそう。錬金窯のなかでは、こういう現象も起きてる。人力で無理やりやると、かなり疲れるけど……呪術なら、もっと極小の単位なら……」




「『水でも霧でもない状態の何かを作れる』。そいつは、『隙間がないほど見事に打たれたミスリルの内部にさえも潜り込む』」

「そういうことだよ、ソルジェ兄さん。そして、その霧は……ヒトにだって、潜り込む。融かしちゃうほどの力はないけど、こっそりと……」

「プレイガストさんは、きっと、その『不思議な霧』に視覚に作用する呪術を刻んでいるんですよね?」

「左様。さすがは、ククリ殿にククル殿。私の作り出した呪術を、たった一言から紐解いてしまった」




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