第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百六十四
「……ふん。彼に会ったとて、何を語るべきだろうか」
「さあな。そこは分からん。だが、楽しい出会いになるはずだ」
「どうかな。姫さまとの思い出話を、彼は……もっていないのでは?」
「昔ならばともかく、帝国時代ではハーフ・エルフは肩身が狭いか」
―――ノヴァークは、そのとき落ち込んでいたらしい。
もしかして、自分はそいつの代わりなのではないかとか。
何とも自己中心的な世界観だろうか、まあ少年らしいというかね。
悔しい気持ちになってしまうのは、愛情と執着が深いからだろうか……。
―――シドニア・ジャンパーからすれば、自分は何であるべきなのか。
もっと主張したいらしいが、迷える思春期はアイデンティティを決めかねる。
恋人でもないはずだが、ただの部下やただの弟子でもない。
くやしい、そいつはただの部外者みたいなものだった……。
「彼にも、生きることが苦しい時代だな」
「オレの側に合流したぞ。オレの直々の部下ではない。今は、メイウェイの配下になる」
「メイウェイは、お前の手下だろう」
「違うさ。あいつは、いつか国を建てるような男だよ」
「厄介な火種である。とてつもなくな。『王なき土地』に、王を立てるとは。帝国でもやれなかったものだ」
「いいように考えろ。帝国以上の行いをする」
「うるさい。貴様は本当に、何を考えているのか」
「分からんか?分からんだろう。オレは君のように賢くないからな。とてつもない愚か者なのだ。ハナシが合わなくても自然なことだよ」
「それでー、シドニア・ジャンパー。あんたはさ、あの子に会いたいの?会いたくないの?私としては、会わせたくないかなって思うの。だって、あんた危険人物だもん」
「そう言われると、会ってやりたくなる」
「うわ。アマノジャクさんだ!」
「うるさい、ケットシー」
「ミア・マルー・ストラウス。覚えてくれるまで、何度だって言うつもり」
「やかましい兄妹だよ、ほんとうに」
「あはは。兄妹だって覚えてくれてるところは、普通に嬉しい」
「アマノジャクよ。アーベル・レイオーンに会いたいんだな。会わせてやるぞ」
―――ノヴァークは、不安と憤りを隠そうとした。
だが、挙動不審な視線と体の動きをソルジェに悟られている。
キュレネイにもね、でも二人は何も言ってやらなかった。
意地悪のためではなく、ノヴァークの苦悩はこの場では価値が乏しい……。
―――祭祀呪術の秘密と、最高の詐欺師の勧誘。
我々からすれば、それは思春期の恋愛だとか社会的な苦悩とか葛藤などよりも。
ずっと集中すべき題材であるのは、認めてくれても非人道性はないはずだ。
だった、ノヴァークのコンプレックスに人命は関わらないからね……。
「会うよ。そうだな。お前らに労力を使わせられるのは、嬉しいものだよ」
「性格悪いって、言われたことないかな?」
「ケットシー、私の性格はもちろん悪いぞ」
「すごい。珍しいタイプだ。自分が極悪人って認めてるなんて」
「お前らのような大量殺人者には、やれない芸当だろう」
「そうかも。その点は、少し感心すべきかもね!そこだけは、そうだ。あなたを認めてあげましょう!自分の邪悪さを認められるなんて、すごい!」
「ミアは聖なる存在だと、お兄ちゃんは知っているからな!」
「わーい!大好き、お兄ちゃん!」
―――山ほど殺人を犯したとしても、聖なる存在はブレないものさ。
これは、つまりは逆説的に正義の危なさを説けるかもしれないね。
世界で最も人を殺している概念は、どう転んでも正義だから。
ボクらはいつも正義を使って、戦争を起こして殺し合っている……。
「ろくでもない連中だ。自身を見返すべきだぞ」
「見返すと、すべきことは分かる。聖でもない邪でもない。猟兵は、正しい存在であるべきだからな」
「おぞましい理屈を、口にしている自覚を持っていろよ」
「戦士稼業はどう転んでも、確かに血に呪われている。だからこそ、多くを救う術があるなら飛びつく。プレイガスト、『村を隠遁させる呪術』についても教えてくれ。いい機会だ」




