第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百六十二
―――その場にボクがいたら、今よりずっと迷ったかもしれない。
茶を濁したかもしれないね、シドニア・ジャンパーあたりをダシにして。
「彼女に多くの情報を与えるべきじゃないよね」、なんて言葉を使ったかも。
それはそうだろう、危険な祭祀呪術の知識を広めるなんてリスクがある……。
「祭祀呪術の儀式とは、『神話の再現』あるいは『神話の追体験』になります」
「お祭りで、神さまゴッコするってこと?」
「まさに、その通り。ミア・マルー・ストラウス殿は聡明だ」
「やった!当たったみたい!でも、ちょっと、よく分からないね」
「神々を題材にした物語……神話などは、多くの人々の心に刻まれているのが特徴です。それを、祭祀呪術は利用する」
「ギルガレアの信者たちには、ギルガレアの神話が伝わっていたな。ルチアたちも、知っていた」
「知っている者が多いほど、それだけ神話は力を宿す。祭祀呪術は、その神話を苗床にするものです」
「信者の多い神ほど、力が強いと?」
「まさに。信仰あるいは、認知度でございますな。神話を知っている者がいれば、それは曲論、敵であっても生贄……力の一部として、巻き込めるものです」
「無知であることが、最大の防御策になりそうだ」
「ええ。取り込まれることは、防げます。しかし」
「しかし、対処も遅れそうだ」
「そこが懸念ではあります。神話には、詳しくいていただいた方がいいでしょう。敵が、使う可能性があります」
「女神イースは、復活したが、倒した。まあ、本人というわけではないのかもしれないが」
「帝国が再びそれを使う可能性もありますし、それ以外を祭祀呪術の起点とするかも」
「……女神イースを国教にした。ユアンダートが直々に。それ以外の、神……?」
「気に食わないことですが、候補が一人いるのです。あるいは、二人」
「何それ、どっちなの?」
「不正確でしたな。二人と、言っておきましょう」
「二人、『人』でありますな。なるほど、とっても腹が立つであります」
「キュレネイには、分かったんだ?」
「オレも、分かっちまったぜ」
「すごい。『めいたんてい』だ!」
「祭祀呪術に、組み込めるってのか……」
「けっきょく、誰と誰なの?」
「……ああ。ユアンダートと、レヴェータだ」
「有名人だし、たくさん殺しまくってるね」
「左様。『神の代役』として『神話』を創るのには、なかなか適している。亡き家族を、神格化する行いは珍しくもない。英雄として、祭り上げているころではないだろうか」
「レヴェータを、英雄だとか、神格化するってのか。クソ、やりかねんかもな。レヴェータの父親だ!」
「ユアンダートは合理主義者です。冷徹だ。呪術を嫌い、封じ、禁じたとしても。祭祀呪術の力を耳に入れたならば、その使用についても必ず考える。皇帝が望めば、封じていたはずの呪術にまつわる情報など、すぐに集めてしまう。そこにいる彼女のように、帝国軍所属でありながら凄腕の呪術師という者もいるのが現実なのです」
「そうだね。シドニア・ジャンパーは、呪術師だもん!」
「指をさすなよ、ケットシーの少女。呪いをかけてやるぞ」
「いけないんだー。そういう意地悪な態度は、捕虜としてよくありませーん!」
「捕虜ではない。ゲストであり、協力者だよ」
「あれ。そんなに仲良くなったの?」
「軍門に下ったのであります。こいつにとっても、復讐の道。レヴェータがライザ・ソナーズを殺した」
「そのレヴェータも、お前らが殺してしまった。私は、復讐する相手を奪われた」
「イエス。しかし、皇帝自身もお前の敵。ライザ・ソナーズが倒したかった相手であります」
「平和な手段でね。ベッドを使った、対象年齢の高い外交があるのさ」
「エッチなやつなら、私はお耳を閉じておこう!」
「たんなる婚姻外交だろ。レヴェータと結婚して、帝国を奪うつもりだった。ユアンダートだって、いつかは年老いて死ぬ。長い、戦略だ」
「不満か?血を望むのだな、ソルジェ・ストラウスよ」
「まあ、その性格は否定しない。ガマンしているから、制御も出来ているはずだがね」
「ガマンしているか、血に飢えた悪王の才能に満ちあふれているよ。まったく。どいつもこいつも、殺したがりどもめ」




