第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百六十
「神さまについて、知識をため込んでおくべきなのは分かったけれど」
「そもそも、どんな『儀式の構造』があるのですか?私たち『メルカ・コルン』は、信仰というものへの理解が弱いのです。なかったので」
「なるほど、それは興味深い土地だね。さて、『儀式の構造』というものは、大きく分けて三つ。『神から祝福を得るための儀式』、『神の攻撃性を誰かに向けるための儀式』、そして、『神のもたらす災いを遠ざけるための儀式』の三系統だよ」
「神さまの力を、利用するカンジ?」
「まさに、そうだ。神々というものは古く、長く信仰されるほど、土地と自然環境と融合しているものだ。祈られた量が多いほど、力を有していく。まあ、宗教家は嫌うかもしれないが、呪術師の目線から紐解けば、それらはすべて人工的な存在というわけであり、もともと呪術と土地の歴史の混ざったものだ」
「そんなものに、ヒトは頼ってしまうのですね」
「左様。弱いものだ。誰しもが完璧な願いを叶えて、生きられはしない。人生に敗北と喪失はつきものだということは、君らとて分かっているはず」
「……うん。思い知らされているかも。私たち、姉さんに生きてて欲しかった」
「失いことで、心に空いた穴を……神さまで埋めようとするのでしょうか?」
「うむ。妻子を奪われた私に、もしも心から頼る神がいれば、毎夜、祈りを捧げただろう。だが、私には、神はいない。呪術師の職業病のようなものだよ。神々が起こした奇跡をもしも見たとしても、それが呪術の成せる業だと見抜いてしまうだろうから」
「い、いい神さまばかりとも、限りませんしね。ぎ、ギルガレアさんはともかく、ボクのお母さんあたりは、ほんとうに……悪いコトをしてしまう神さまです。悪気は、なかったとしても」
「悲しいかな、悪神も多い。『ゼルアガ』あたりは、この世界に多く悪影響をもたらした」
「『ゼルアガ』じゃない神さまは、どうやって出来ているの?」
「信仰そのものが、呪術をなった。『チャンム』は『トゥ・リオーネ』の古い神。復讐と豊作の神だ」
「豊作の神さまという点は、少し意外ですね」
「まあ、そうだろう。『チャンム』も含め、神々には二面性どころか多面性がある。なぜだと思うかい?」
「……ヒトが、その神さまに対して求める事が、多いんだね」
「さすがだね。そうだ。『チャンム』の場合は、土地の防衛、復讐、そして敵や生贄を捧げることから得られる報酬としての豊作がある。いくつもの時代を経ることで、それぞれの能力と儀式を獲得していった」
「歴史を、知らないと祭祀呪術を運用するのは難しそうですね」
「学問こそが、世界を変えるものだということさ」
「ククク!それは、実にいい言葉だぜ、プレイガスト。オレは苦手な分野ではあるが、学問や賢者たちは応援してやりたいのだ。戦士だけでは、破壊の先に創り上げるものが限られてくる」
「王として、その視座をお持ちになられている点は、非常に正しく、民からすればありがたいことですな」
「賢い王に、なりたい。バカのくせにな。だから、賢者を頼る」
「ええ。それでいいのです」




