第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百五十八
「拒む権利は、ない。だが……レヴェータの名を陥れるのも、悪くはないか」
「少尉、マジで、そうだと思うぜ」
「お前は、黙っていろ。不愉快な気持ちにさせてくれるな」
「は、はは。手厳しいや。でも、これで……」
「オレたちはチームだ。永遠に仲良くというわけには、いかないかもしれん。だが、シドニア・ジャンパー少尉。帝国を倒すために、君の力を借りたい。君自身が企んでいた『仮想の国』を作った詐欺で、帝国貴族から金と物資を騙し取ってくれ」
「……お前は、勝利をくれるか」
「ライザ・ソナーズの願いに沿うよう、心掛ける。ファリス王国時代の、ユアンダート以前のあの国は、ガルーナと同じ風が吹いていたはずだからな」
「ソナーズ家や、旧貴族の復権をして欲しいとまでは、言わない」
「そうだな。そこまでは保証しかねる。彼らとて、帝国の一員。ユアンダートを信奉している者も多かろう。戦いになれば、オレは古き哲学に応じる」
「戦い、殺す」
「ああ。それもまた、彼らの望みでもある」
「……野蛮な連中だよ。どうして、戦士という連中は、私や姫さまのように知的な戦いを好まない?」
「詐欺や商いは、オレみたいな野蛮人には難しいからな。だから、君みたいな賢い女性にアタマを下げて、力を貸してほしいと願うのさ」
「アタマなど、下げてはいない」
「下げるべきかな。君は、そういう形式を好まないと勝手に考えている」
「……いらん。不要なものは、欲していない」
「なら、欲しいものは文章にして伝えてくれるとありがたいぜ。記憶力頼みでは、不安が残る」
「多くを、奪い取ってやるぞ。お前からだ」
「したければ試みろ。それも、オレの背負うべき業ってものになる。たしかに、大勢、殺しまくっているんだ。恨みや怒り、憎しみだって受け止めてやるべきだろう」
「なんだ、その余裕は」
「余裕というより、義務へ立ち向かうとき、騎士道というものが示す手本は、こんなものというわけさ」
―――完全な和解ではない、そんなものはこのふたりの間には訪れない。
キュレネイは今でも警戒心を解かず、ソルジェ自身も苦笑している。
それでも、稀代の詐欺師と大魔王は握手を交わしたよ。
ようやくノヴァークは安心し、血の味のするため息を吐いた……。
―――ゼファーは大きな旋回で、傭兵らとの別れを飾る。
彼らとは遠くない時間を経て再会し、同じ側の戦列へと並ぶ運命だ。
プレイガストは不思議な感覚のなかにいたよ、敵を抱き込むソルジェの力。
それは復讐者の質とは、かなり違うものだからね……。
―――だが、不機嫌そうに口を尖らせたまま地上をにらんでいる詐欺師を見れば。
敵対を乗り越える力も、必要なのだと思い知る。
詐欺師としても会計将校としても極めて有能で、さらには呪術師としても最高だ。
プレイガストは『自分の後継者』を、ここに見つけた気がしている……。
―――祭祀呪術の情報を教えれば、この若い呪術師はさらに化けるはずだった。
呪術収集をしていたレヴェータから得た情報も、伝えてもらえれば彼も強くなれる。
『呪術の教師』としての側面が、彼に仕事を見つけさせていた。
ソルジェもゼファーも、そしてもちろんジャンも有力な呪術師である……。
「私の、呪術を伝えておくべきでしょうな」
「おい、プレイガスト。まさか」
「今日明日に死ぬわけではありません。ただ、いつまでも健康ではいられないでしょう」
「祭祀呪術を、使わせてしまったからか」
「色々とあったものです。監禁生活と拷問と、復讐心が寿命を奪ったのは確か」
「だから、伝えておきたいと?」
「ここにいる若者たちは、私の死後もずっと長く生きる。呪術の知識も共有し合っていておきたい。そうすれば、きっと私は役に立てる」
「願ったり叶ったりではある。無理はするなよ。長く生きていて欲しいからだ」
「ええ。ストラウス卿が、私の願いを果たしてくれる日を越えて、生きねばなりません」
「もっとさ。復讐が終わったあとで、どんな願いを持てるのか。教えてくれ」
「……ええ。どうにか、試してみましょう」
「では、授業を頼むぞ。呪術師プレイガスト、あるいは数学者プレイガスト殿」




