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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千百五十


―――ジャンの牙に力が込められ、薔薇の香りがさらにあふれた。

触手どもに激震が走ると共に、それらの動きが硬直する。

傭兵らの攻めはさらに極まり、祭祀呪術が機能不全に追い込まれる。

プレイガストはいくらか残念にも思いつつ、事態を受け入れるほかにない……。




―――ユアンダートを殺すために練り上げた方法が、消えてなくなる。

長年の苦心の作品を、彼は失おうとしているのだ。

問題はない、シドニア・ジャンパーを確保できるのであれば収穫は大きい。

計算に対して冷徹であればいいだけのこと、経済的な攻撃は帝国に有効なのだ……。




―――だからこそ、彼もまた呪術を振るう。

ギルガレアの遺した力が弱まるのならば、チャンムの影響力が増す。

『動くな』と命じ、ジャンに対しての反撃を試みる触手どもの動きを遅らせた。

体の奥に痛みが走る、拷問牢からの脱出を果たしてから疲れすぎている……。




―――そもそも祭祀呪術の負担は大きいだろうから、彼は寿命も削ったはずだ。

その苦心の作品を自ら捨てる行いは、なかなかに苦痛も大きい。

妻子たちを想う、自分の力で復讐を果たすと誓い続けて来たのに。

悲しくもあるし、悔しくもある……。




―――それでも冷徹な計算で、自らチャンムに自壊を命じた。

回収を試みることなどなく、徹底的に捨て去るのみ。

神々の『悪用』は、思っていた以上にリスクがあるのだから。

あれを野放しにしておけば、どれだけの人々が死んでしまうだろう……。




―――練りに練った始動ではなく、状況に応じた解放に過ぎなかった。

もっといいタイミングで使うべきであったが、これも運命だろう。

ギルガレアとチャンムの、どちらもここで果てるべきだ。

大いなる力を二つ失ったとしても、最終的にユアンダートを討てればいい……。




―――多くを捧げて来たのなら、この瞬間もそうである。

復讐の道は遠大であったものの、成し遂げるためのカードはそろった。

祭祀呪術さえも叩き潰す、圧倒的な英雄たちがここにいる。

漆黒の翼が空を支配するように伸びて、強い羽ばたきを行った……。




「ジャン!!引き抜いて、ぶん投げろ!!」

『はい!!い、いきますッッッ!!!』




―――薔薇の香りを噛み砕きながら、ジャンはそれを空へと投げた。

無数の獣のすがたが、赤いかがやきとなって周囲に駆け抜ける。

空であることなどお構いなしに、あふれて散って行くのだ。

神々しくもあり、恐ろしくもある……。




―――加速したゼファーは、空中に舞う呪いの中心に近づきながら。

『火球』を準備する、ソルジェは『風』の魔術を使おうとするものの。

魔力がもはやないわけで、それゆえに猟兵へと頼る。

キュレネイが背中に張り付いて、伸ばしたソルジェの右腕に自分の腕をそえた……。




―――キュレネイも疲れているから、二人分の魔力を合わせればいい。

ククリとククルは、ちょっとキュレネイに嫉妬していた。

無言で完璧な連携を、双子は自分たちの中でなら完璧にこなせるけれど。

キュレネイほど上手くは、ソルジェと連携が出来ない……。




―――天才たちゆえの、嫉妬深さとプライドの高さも二人にはある。

うらやましい、ソルジェとキュレネイのあいだにある時間と記憶の量が。

その嫉妬もまた成長なのだと、恋物語や恋愛詩で金を得たボクは考える。

『錬金術師アルテマの分身たち』しかいない、閉じた村からの旅立ちだ……。




―――嫉妬という非合理的な感情ほど、ホムンクルスたちの成長を示すものはない。

自分たちしかいない静かで合理的な社会から、生々しいヒトの世へ旅立ったのさ。

戦闘行為に紛れ込む、キュレネイの無表情な恋慕だって感じ取れている。

それはまだ子供のミアよりも、ずっと乙女らしい感情だった……。




―――いずれにしても、ひとつの終わりがやってくる。

呼吸と意識を無言で合わせていき、同時に『風』を放った。

ゼファーの放つ黄金色の『火球』に、『風』が混ぜ合わされるのだ。

燃え盛る威力が空に軌跡を描いて、ただ敵へと直撃する……。



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