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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千百四十八


―――勇気の化身のような戦士だよ、我らがジャン・レッドウッドは。

口で怪物に噛みつけるなんて、クレイジーなほどの心理的強度と言うべきか。

古木をまとった触手の群れに、頑強な牙が突き刺さる。

落雷の轟音にも似た爆発の音が響いて、触手の中心に深く牙が到達した……。




―――古木の分厚い『装甲』を、瞬時に破壊してみせたのは流石の一言だね。

そのまま流れるような自然さで、ジャンは巨敵を『引き抜きにかかる』。

地下に根を張る古木と、それに寄生する邪悪な祭祀呪術の化身。

どちらかをだとか、そんな小さなことを考えてなどいないのさ……。




―――どちらもかまわず、引き抜いてやればいい。

建築物さえも持ち上げてしまう、規格外の最強筋力だ。

『狼男』はこの地域の土の下に根を張る、巨大な敵にさえも気にせず挑む。

首周りの筋肉が爆発的に膨れ上がり、毛皮は荒々しく逆立つのさ……。




―――ソルジェは嬉しくて仕方がない、何ていう力なのか。

竜騎士の眼には地上の異変が、しっかりと認識出来ていたんだよ。

揺れている、とてつもなく広い範囲がだ。

寄り集まった小さな村丸ごとの範囲に近しくて、筋力の作用とは信じ難い広さだ……。




―――大地の底から地響きが放たれ、それはジャンに引きずられる敵の音だ。

地下の土にしがみつこうとしても、まったく歯止めにならない。

土と岩に絡みついた、触手のどろどろとした『根っこ』。

それがジャンに引き抜かれていく、そんな非常識な音があちこちに響く……。




「すごいや、ジャンさん!」

「あれだけの質量を、引っぱって歩いているんですね」

「イエス。ジャンならば、可能であります」

「そうだ!!いいぞ、ジャン!!」




―――大地に爪を突き立てて、ただの力で引きずって走る。

周囲に広がる全ての触手に、異変が発生していた。

身動きが取れにくくなっているようで、傭兵らに多くの隙を作ってしまう。

百戦錬磨の傭兵が、その隙を見逃すはずもない……。




「切り裂いてやれ!!怯んでいやがるぞ!!」

「ソルジェ・ストラウスが、何かをしたんだろう!!」

「本当かよ!?まあ、どうであれ」

「隙がある!!切り崩して、刈り尽くしてやるぞ!!」




―――集団戦闘は連携が要であるが、連携をけん引するのは英雄だ。

たった一人の圧倒的な活躍に、戦場のすべてが変わっていく。

そんな起点になることも、多々あるものでね。

真の連携は凡夫と英雄の組み合わせで、強烈な力に化けるものさ……。




―――ノヴァークは、そのレバレッジ的な力を見ていた。

たったひとりの力で、あらゆるものが連動して変化していく様子だ。

水面に投じられた石により、広がっていく波紋だとか。

燃え広がる火事のそれにも似ていて、容赦なく連鎖して人々の狂騒が連鎖する……。




「すげえぜ、オレのトモダチ!!」




―――誇らしい気持ちで、いっぱいになる。

呼吸が苦しくても、あちこち痛くても。

ジャンの活躍が嬉しくて、どうにもたまらなかった。

シドニア・ジャンパー以外に、希薄になっていた共感性を取り戻したらしい……。




「あんたも、相当な苦労人だ。そうだよな。強くなるわけだ」




―――苦労の少ない人生を歩めた詐欺師の少年は、どこかうらやましそうだった。

ジャンは悲惨な生い立ちをしているし、孤児たちを殺めてしまったけれど。

別にジャン自身は悪いわけでもなく、むしろ被害者と言えるんだよね。

正当な道を歩んでいる、だからギルガレアも罪と認めなかったのさ……。




―――うらやましい、無垢で正しい者の必死さが。

ノヴァーク少年は、更生の余地を残しているのかもしれない。

少なくとも、すっかりねじ曲がっている女師匠よりはね。

歯ぎしりする彼女は、運命の力学から目を逸らすためにまぶたを下ろす……。




―――『意に沿わぬ新たな主』に、仕える人生が待ち受けているのだ。

ジャンの見せた規格外の力は、ソルジェの力の一部でしかない。

猟兵たちの王、大魔王ソルジェ・ストラウスの。

彼女の主であったライザ・ソナーズが、その身を犠牲にして皇太子に媚びたように……。




―――運命はとても残酷で、目的のために従う他ない瞬間もある。

気高い生き方ばかりが、全てではないのだ。

ロケットの中の遺灰、恐怖の発するワガママな命令。

本能を殺して、ヒトは現実に沿うために自分を歪めることを選ぶものさ……。




―――だから世の中は、悲しくて。

勝利して欲しくない者が、勝者となり。

生きていて欲しい者は、星へと変わった。

苦しみばかりが人生ではないはずなのに、弱くねじれた怪物は負けてばかり……。




「……美しい生き方は、出来ないのだろう。だったら、せめて。祈りを継ぐのか。ムカつくハナシだ」




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