第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百四十六
―――キュレネイの言葉が、シドニア・ジャンパーには刺さっていた。
ノヴァークにはそれが分かっていたよ、彼女たちには共通点があるらしいと。
知的でクールで、どちらも主を失った地獄の痛みを持っている。
完全な説得は不可能かもしれないけれど、別にそれは問題にならないかも……。
―――猟犬の呪いで、自殺は出来ないわけだしね。
そもそもソルジェが嫌いかもしれないが、レヴェータはその十倍は嫌いなはず。
『世の中の流れ』というものは大きく、それに逆らう術は天才詐欺師にもない。
完全な自由を得られなかったとしても、復讐の機会だけは与えられる……。
「……ストラウス卿。祭祀呪術が、弱まっていますぞ」
「皆がいい戦いをしてくれているからな!当然だ!!」
「傭兵らの意地のおかげで、あれは作戦を変えつつあるように見えます」
「分かっている。オレたちに、集中しているようだな。つまり―――」
「イエス。ジャン、出番であります。さっきのプランを今度こそ。ゼファーに触手を引き付けておいて、ジャンが『呪いの中心』を攻めるであります」
「わ、分かりました。いつでも、やれます。あの触手には、二度と吞み込まれたりしません。だ、団長。信じてください」
「当然、信じる。猟兵がやれるというのなら、やれるのだ」
「は、はい!!」
「最接近した後、左右に分かれるぞ!!オレたちに食いついてくれるはずだが……逆の場合は、オレたちが本命を落とす!!」
「ジャン、単独行動であります。状況判断を間違わないように」
「わ、分かってます。やれます!あ、あいつに呑まれて、学んだことは多いんですから」
「ククク!ケガの功名というものが、あったらしい!!後で、詳しく聞かせてもらうぞ!!だが、今は……作戦、開始だ!!」
『せっきんするよ!!あいつを、ぼくにひきつける!!』
「ジャン!!今だ!!」
「『風』で援護してやるであります。降りたら、そのまま直進」
「は、はい!!』
「ご武運を、ジャン・レッドウッド殿」
―――ゼファーが飛翔の軌道を、左に向けて大きく変えた。
触手どもはその陽動に、疑いたくなるほど素直に誘導されてしまう。
突撃して来ると判断していたせいで、過度なまでの迎撃と追撃を行ったのさ。
おかげでゼファーの背から飛んだジャンに、反応するタイミングが遅れる……。
『て、敵の密度を、考えるんだよね!!いいカンジで、ぜ、ゼファーに誘われてる。いや、ゼファーの技巧だよ。脅しと、動きで、敵も含めて全部操ったんだ……ッ。さ、さすが過ぎて、嫉妬も出来ない』
―――『巨狼』の化けながら、ジャンは地上に着地する。
とてつもない衝撃が走ったけれど、まったく問題にならない。
くすぐったい程度のダメージしか、この落下にはないんだよね。
それゆえに、即座に突撃を開始するんだ……。
「ジャンさん、やっぱり、とんでもなく速いや」
「うらやましい速度です。馬よりも、はるかに速く走れるなんて」
「団長、こちらに敵の八割は食いついたであります。残りの二割が、ジャンに向かって戻っていく」
「二割なら、ジャンの邪魔にもなりそうにないな!!」
「イエス。敵の群れを、ストレッチ出来た」
「チーズみたいに伸ばしてやったぜ。密度は、すっかりと薄まっている」
『えんご、しよう!!のこりのにわりも、ぼくが、さそってやる!!』
「いいアイデアだ!!いくぞ、ゼファー!!」
―――ゼファーは青空のなかで、大きく右旋回をした。
それをしつつ高度も落とし、触手どもが自分に集まるように誘っている。
無数の触手どもは意志統一が取れ過ぎているかも、少なくとも軍隊よりは。
統率が取れ過ぎて、全員が似た反応をすることをゼファーは見破っている……。
―――敵の射程圏内に、自ら飛び込んでいくその姿に。
敵は狂喜乱舞の飛びつきを、最大限に加速させる。
まるでそれらは赤黒い影、地上を這うように走った後で。
天を衝くように伸び上がる軌道は、恐ろしく速かった……。
『もんだいない!!しょうめんから、ぶちぬいてやる!!』




