第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百四十三
―――傭兵らを奪われたことに、腹を立てていた者たちは他にもいる。
気配と魔力を消しながら、地上へと這い出ていた傭兵コルテスの兄妹だ。
彼らにも触手どもが襲い掛かったものの、妹カレン・コルテスが切り伏せた。
重傷の兄を岩陰に座らせながら、戦場を観察中さ……。
「私たちが用意した連中を、魅了してしまっている。どこまで、負けなくちゃならないのか」
「強さに弱いのが、傭兵ではある」
「分かっているわよ。でも、こうもあっさりと」
「どいつにだって目的もあるし、悩みもあるってことだ」
「彼らは、ソルジェ・ストラウスの強さに何かを見つけたと?」
「傭兵は、自由な存在のはずだからな。声も、響いていただろう。ガルーナの兵だとよ」
「北の果てで魔王の手下になるよりも、故郷の解放が先だと思うけれど……『トゥ・リオーネの地』の出身者たちも大勢だ。逃げずに、このタイミングまで陣取っていたのは、私たちへの共鳴もあったからこそ」
「夢は、はかないもんじゃある。さすがは、夢だな」
「……認めたいわけじゃないでしょう?あきらめることを」
「ああ。だが、誰にも強制は出来ん。裏切るということは、本心が出てしまっているからだな……方針を変えるための痛みに、耐える覚悟も持つべきだぞ、カレン」
「兄として、そんな遺言をするつもり?……私に、革命を押し付けて」
「死ぬつもりはないさ。ギリギリで、冥府の追跡をかわしてやる。だが、オレよりお前の方が有能なのは確かだ」
「情けない。泣き言は、嫌いだったはず」
「いくらか策を、練らなくては……シドニア・ジャンパーを、殺せれば、まだ、帝国軍とのつながりを維持出来たかもしれんのに。惜しいぞ」
「空の上だ。猟兵が、護衛についているのなら……」
「暗殺の機会は、一緒にいれたときだけだったのに」
「あの詐欺師の悪事の情報を、帝国軍に売るだけでも」
「悪くはない……内部に入り、機密情報を得て……」
「かく乱していく。そうすれば、『トゥ・リオーネの地』全体の侵略も時間がかかる」
「排除すべき、都市国家の無能な首長どもだけを狙わせることも。市民に力を取り戻させるの」
「シドニア・ジャンパーの罪は、かなりのものだ。帝国軍から憎まれ過ぎれば、彼女の護衛をやっていたオレたちにも……くそ」
「首を取っているべきだったわね。惜しまれる。今日は、本当に、嫌なことばかり」
「強い敵とは、出会えたぞ。コルテスの枝の一本が、連中にもつながっているらしい」
「分からないでしょ、そんなこと」
「あの黒髪のケットシーの小娘は、お前の動きによく似ていた」
「そんなものは偶然。達人じみてくると、動きは似て来るものでしょう」
「戦場での直感は、信じておくべきだよな。それに、そう考える方が、楽しい場合は」
「……傭兵コルテスらしい、考え方ではある」
「多くを奪われるのは、癪に触りはするが……ここでの挽回は、もう何もなさそうだ」
「まあ、そうね。あいつら猟兵どもの動きを、もう少し見ておきたかったけれど」
「真似れば、強くなれる。あいつらはオレたちの上位互換の動きをやっていた。習得するのは、不可能じゃない」
「……ええ。剣を交えたことには、大きな意味がある」
「オレたちの考えも、伝わっただろう。シドニア・ジャンパーにも、帝国軍にも、飼われるつもりはないのだと」
「それに、意味が?……あいつらは、私たちの目的に協力はしないのでは?どうせ、『プレイレス』側の政治勢力に、『トゥ・リオーネの地』を支配させようとする。それだと、何も変わらない」
「ヤツは……ソルジェ・ストラウスの目的は、帝国そのものだ。『トゥ・リオーネの地』自体に、それほどの執着はない。状況次第では、付け入る隙も生まれる。我らが故郷は一枚岩にはなれん。火種は多い。遺しておけば、利用できるさ」
「……そうかもしれない。もう、立てる?」
「ああ。離脱させてもらおう。オレたちは、ここから退く。目標のためにな。シドニア・ジャンパーの情報で、まずは稼がせてもらうさ」
「大金のにおい自体には、笑顔になれるわね」
「いいコトも、あったというわけだな。殺されかけはしたが、金は、得られる」
「行こう。守ってあげるから、魔力と気配を消して、竜の飛び回るこの空から、逃げるわよ」




