第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千百四十二
「奪われた者には、奪い返す権利がある。オレはガルーナを奪われた。君は、王国時代のファリス再建の夢か」
「もっと、大きなものだ。姫さまの外交力ならば、もっと大きな……ッ」
「その大義において、オレが継ぐべきものは継いでやろう。ガルーナを裏切る前のファリスは、たしかにガルーナの同盟に相応しい価値観を有していたからな」
「お前などに、新たな世界が築けるものか。お前は、乱世を広げる。姫さまは、ご自身さえもカードにして、外交で世界を開こうとしていた。皇帝さえも、抑える権力を作れたはずなのに」
「ユアンダートを抑えられたかどうかは知らないが、彼女の政治的手腕は認めるよ。ライザ・ソナーズの哲学は、オレたちと通じる部分も多くあった」
「うるさい。戦いに、集中しろ」
「しているだろう。戦場を飛び回りながら……こうして、矢も撃っているのだ」
『ぼくたち、てきのやをうばって、ほじゅうしたからね!!うちほうだいだよ!!』
――樹皮を『着込む』ような形になっている触手どもにも、弱点はあるのさ。
樹皮は盾のように矢を防ぎはするが、全体が樹皮に覆われているわけじゃない。
むき出しの赤黒い触手の肉体部分を、精密に射抜きにかかる。
神業に近い達人技だが、狙撃の名手がここにはそろっているからね……。
―――樹皮に包まれていない触手どもには、どこにだって矢が通じるよ。
傭兵らから奪った、『竜対策の細く鋭い矢じり』だ。
高みから放たれたそれは、恐ろしい加速を帯びて複数本の触手を貫通した。
竜の背から落とされる矢の威力に、傭兵は歓声を上げている……。
「ハハハハ!!スゲーぜ!!」
「敵としては、恐ろしい限りだが!!」
「味方だと思えば、これほどの援護はない!!」
「岩だって、射抜ける威力じゃないか!!」
―――もちろん、下手すれば岩にさえ突き刺さるかもしれない。
ゼファーは50メートル程度の高さで、戦場を飛び回っている。
矢の威力は、地上で放つそれの数倍はあった。
太い触手であっても貫通するのは当然であり、その援護に傭兵は反応する……。
―――隊伍を組んで、斬撃と刺突で攻め込んだ。
ソルジェの言葉の通りに動けば、触手とも十分競り合える。
そもそも、『プレイレス』周辺で傭兵業を続けてきた者たちには見覚えがあった。
触手と使う武術などないが、攻め方には中海地方の哲学と共通している……。
「この動きにも、慣れて来たぞ!!」
「戦える!!やられっぱなしである必要はない!!」
「こいつは恐ろしいバケモノだが、我々だって恐ろしい傭兵だ!!」
「ソルジェ・ストラウス!!報奨金を出せよ、このバケモノどももアンタの敵なのだろう!!より多く狩った者には、大金を頼むぞ!!」
「ククク!金、金、金。傭兵らしい図々しさだな。しかし、それが彼らの戦う動機となる!!いいだろう!!この戦いに生き延びて、『自由同盟』に合流した傭兵のなかで、最も多くを狩ったと仲間から推薦を得られた者に、望む額をくれてやるぞ!!」
―――金もまた、傭兵の燃料だった。
ガルフの論理に合致するよね、政治力と金が戦争の目的なのだから。
傭兵の動きがさらに鋭さを増して、明らかに攻撃性が倍増していく。
傭兵を操ることには、ソルジェも造詣が深いのさ……。
―――彼らをさらに『自由同盟』側に、引き寄せているものいい。
条件を告げてしまっている、『自由同盟』に合流するのが褒美の条件だと。
シドニア・ジャンパーは、またまた腹立たしい気持ちになる。
自分が創り上げた傭兵のセットが、ソルジェに丸ごと奪われていくのだから……。




