第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千六十六
―――ジャンは自身について、この狡猾な詐欺師に知らせ過ぎている。
有名になることの悪い点が、ジャンにもつきまとい始めていたのさ。
『狼男』は目立つからね、『巨狼』に化けて戦場で敵軍を食い散らかしている姿は。
竜のインパクトに隠れたとしても、あまりにも強大で異質な存在ではある……。
―――元からジャンだけを狙っていたわけじゃなく、猟兵を狙っていた。
可能ならばゼファーさえも、生贄にしたかったのかもしれない。
計画を立てて来たことによる勝利であるし、幸運がくれた点もある。
『ノヴァークを殺しかけて良かった』、彼女はそうまで思っていた……。
「祭祀呪術からは、逃れられないぞ!!お前のように戦場で大勢を殺し続けたお前はとくに!!『多くの命を奪った者ほど縛られる呪い』だ!!ギルガレアの特性も、しっかりと残しているぞ!!『それだけではない』が、お前にはギルガレアが有効だろう!!罪深い、子供殺しの狼よ!!」
「ぼ、ボクは……そうだと、しても……ま、負けるわけには……ッ』
―――触手の群れに呑み込まれながらも、ジャンは『巨狼』へと化ける。
圧倒的な力で、振り払おうともがいて暴れた。
無数の触手が牙で切り裂かれ、あごの力で引き抜かれる。
地下道が崩壊しそうなほどの揺れは、触手どもだけでなくジャンの力の結果だ……。
「暴れたところで、無駄だぞ!!ギルガレアの権能もある!!罪を償わせようとする力だ!!ソルジェ・ストラウスほど殺しているかは知らないが、お前は幼き頃からの殺し屋だ!!死と破壊の衝動に、抗えなかったから、戦場で敵兵の肉を喰らっている!!」
『ひ、ヒトを食べては、いません!!た、ただ、帝国兵を食いちぎっているだけ!!』
「十分に、罪深い!!」
『そ、そうだとしても!!あなたの言いなりには、ならない!!』
―――ジャンは大暴れして、引きずり込まれないように耐えた。
圧倒的な筋力のおかげで、健闘している。
足場がなくなるほど触手どもが足元から飛び出しても、反射的に嚙み潰す。
だが、ジャンには枷が多くあった……。
「狼よ、見事な暴れっぷりではあるが……それでh、私もノヴァークも、死んでしまうぞ」
『……そ、それは!?』
「この古びた地下道は、かつての耐久性はとうにない。時間は、私に味方をしてくれるようだ」
「少尉に、騙されるな!!」
「崩落しかけているだろう。ノヴァーク、ジャンに教えてやれ。選択肢など、とっくの昔になくなっている。お前は、生贄になるのだ!!」
―――ジャンは抵抗しなくなる、この詐欺師の命にはかけがえのない価値がある。
殺してはいけないのさ、彼女は帝国軍との戦いの切り札には違いない。
通常の軍事力とは異なる大きな戦略、それを使えれば。
『自由同盟』側の戦士たちが、どれほどその命を救われることだろう……。
―――無敵の『巨狼』が、その全身を触手に巻き付かれてしまった。
四方八方に引きちぎられそうな力であるものの、ジャンはそれに耐えている。
抗う術を探してるが、見つからなかった。
ゆっくりと地面の裂け目の奥、ひしめく触手の海へと呑まれていく……。
『だ、団長……っ。も、申し訳ございません……っ』
「あ、あきらめるなよ、ジャン・レッドウッド!!呪術と戦うときは、そういう態度が最低最悪なんだ!!ど、どんなに無理でも、あきらめるんじゃない!!」
『わ、分かりました。だ、団長に、お、お伝えください!!ぼ、ボクは、あきらめませんから!!』
「呑まれろ、狼よ!!」
―――触手の数がさらに増えて、ジャンはついに地面の裂け目の奥深くへと沈む。
ノヴァークはジャンの魔力が、またたく間に弱まるのを感じた。
祭祀呪術の生贄として、ついに『狼男』は捧げられてしまったのだ。
地面を少年の拳が、悔しそうに叩いた……。
「少尉!!こ、こんな真似をすれば、もう、ソルジェ・ストラウスもあんたを許さないだろう!!こ、殺されてしまうぞ!!」
「戦いは避けられないというわけだ。ノヴァーク、お前はどうする?私のもとへと、戻る気はないのか?」




