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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千五十八


―――愛があるから、幸せなんていらない。

そんな深さの狂った愛もあるけれど、それはノヴァーク少年が求めてはいない形だ。

もっと、ほのぼのとしたものだった。

ありふれた日常的な愛情が、まさかシドニア・ジャンパーにあるなんて……。




「こっちは、世界の理のようなものに挑んでいるんだよ、ノヴァーク!!そんな私に、まともな愛情を求めてくれるな!!私はな、お前のお母さんじゃないんだよ!!」

「は、母親を少尉に、求めちゃいないっ」

「動かないでっ。き、傷が開いてしまうから!?」

「開けばいいさ。ざっくりと開いて、命を捧げればいい」




「あ、あなたはおかしいです!!」

「当然だよ、猟兵。呪術師だ。会計将校でもある。しかも、今は、もっと恐ろしい存在でもあるぞ。聞き給え。聞こえるはずだぞ!!これは、幻聴なんかではないからな!!」

「こ、この音は……っ」

「私の可愛らしい祭祀呪術が、発動したのさ。誰かが死んだのかもしれないな。生贄が、足りたんだ」




「だ、団長たちの血のニオイは、しちゃいませんから!!」

「ならば、あいつらだろうか。猟兵を相手にしては、あいつら傭兵コルテスの猛者たちも生き残れるとは限るまい」

「か、彼らの血のニオイはするけれど。し、死んだとは限りません!!」

「あいつらを心配するのか?敵だろうに」




「そ、そうですけれど。あ、あなたの生贄になんて、なりはしませんっ。傭兵はしぶといものですからっ」

「どうして、そんなに否定したがるのか。ああ、あれだな。そうか。つまり、君の心は」

「な、何だっていうんですか!?」

「かつて、生贄にされたことがあるな」





―――ああ、賢い者と戦うべきじゃないよね。

ジャンの心の傷を、その良くも悪くも賢明な嗅覚で嗅ぎ分けてしまっていた。

詐欺師である彼女の言葉は正しい、信用の逆説的な利用者のくせに。

アリアンロッド、ジャンが『お母さん』と呼んでしまう悪神だ……。




―――シドニア・ジャンパーは、その『ゼルアガ』の存在を知らないけれど。

目の前にいる我らが若き猟兵が、生贄の責め苦を知っている者と看破していた。

反応や態度といったものから、探り当てていく。

会計将校らしいという技巧なのか、それとも詐欺師のそれなのか……。




「多くの嘘つきを、私は相手にしてきたからな」

「だ、黙ってください。黙れ……」

「どれだけの多くの嘘を見破ったのか。隠し通そうとした情報だって、必ず見つけ出す。拷問さえも必要がない。お前の目を見れば分かるのだよ、狼よ」

「う、うるさい。黙って。今は、の、ノヴァークの止血をしなくちゃならない……っ」




「作戦目標は、そいつじゃないだろう」

「そ、それは……」

「私を逃がしてもいいのかな。ジャン、魔王ソルジェ・ストラウスの忠実な番犬」

「ぼ、ボクは番犬じゃない。お、狼であり……魔王の、騎士なんだ」




「なるほど、魔王の騎士か。それは素晴らしい。何かしらの邪悪な存在への生贄に差し出された男には、相応しい立場じゃないか!!」

「だ、黙って!!ぼ、ボクを、怒らせないでください」

「怒るようなことか?お前は、生贄にされた。だが、生き残った。何かを裏切ったんだな。生贄にされて生き残れる者は、この世にほんのわずかしかいない。お前は、何かを裏切らなければ、生き延びられなかったはずだ」

「そ、それを、あなたに知らせるつもりはありません」




「人外の存在を推し量るのは、それほど難しいことじゃない。神だ。神が、生贄を求めてきたのだろう。どこの神だ?今日日、生贄を求めるとなれば……田舎の神。あるいは、そもそも……普通の神ではない」

「の、ノヴァークの治療に、集中させてください。あなたも手伝って」

「私をノヴァークに近づけたいのか?そうじゃないだろう。私だってな、そいつを確実に始末する方法はいくつか持っているのだ」

「だ、だったら、せめて黙って。邪魔は、しないでください」




「無視できないほどの痛みなのだな。それは当然だ。『被害はきっと、お前だけじゃなかったのだからな』」

「だから、だ、黙って……っ」

「『仕方がないさ。『ゼルアガ』が相手だったのだろう。お前は、きっと幼かったんだろうしな』」

「ど、どうして……」




「おい……ジャン・レッドウッド。の、乗せられるな。少尉の話術にハマれば、どんな秘密だって、暴かれてしまうぞ」

「は、はいっ」

「真実は痛いかな、狼。ジャン・レッドウッド。より多くを、私は知っている。口調からして、北方出身者であるとか、幼少期に学問を習わなかった者に特有な、知的な劣等感だとか。お前は、単純な計算も、まして文字さえ、最近まで読めなかったのだろう」

「…………ど、どうして、そこまで」




「怯えるな。少尉は、賢いんだ。分析しているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。アンタ自身から、情報を盗み出しているだけ」

「サクッと刺してやったのに、元気だな。お前が死ねば、祭祀呪術は本格的に動き始めるというのに」

「だから、死なないんだ」

「私を愛してくれていると思っていたよ。男はやはり、期待など出来ない動物だ。とくに愛情が絡むと、からっきし役立たずだ」




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