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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千五十六


―――部下の死体のなかに、呪術を隠してるような女傑だからね。

倫理観もなければ、容赦の欠片もないような極悪人だよ。

我らが純情なるジャン・レッドウッドでは、交渉相手としては弱い。

まあ、交渉しなければいいだけのことだけれどね……。




―――この状況から数分前のこと、修羅場みたいな力場が生まれていたよ。

若きノヴァークは、どうにか自分の力で説得を試みようとしていた。

ジャンには無理だからね、交渉役は丸投げでいい。

ジャンがすべきは、何が起きてもシドニア・ジャンパーを生存させること……。




―――それだけでいいんだと、ジャンは考えていた。

ボクたちよりも優れた純粋さという武器が、この若い『狼男』にはある。

ちょっと不安になるレベルで、作戦目標を優先出来てしまう傾向だ。

それは若干、いわゆるサイコパスな気配を漂わせる性質でもあった……。




―――幼少時からの孤独な森暮らしが、ジャンの人格形成に悪影響を及ぼしている。

通常ならば人間関係とか常識、あるいは倫理観みたいなものでね。

ヒトってのは、かなり社会性の檻のなかに生きているものだ。

非常識な振る舞いを演じられたとしても、真剣に実行可能な者は少ない……。




―――ジャンは、そのあたりが良くも悪くも『得意』なんだよね。

やさしくはあるのだけれど、社会性の面では恐ろしい欠落があった。

シドニア・ジャンパーを生存させればいい、死ななければいいのだ。

襲い掛かる全てを殺すなり壊してしまえば、問題はないのだと……。




―――ああ、具体的に言えばね。

ジャンは状況がこじられるのなら、ノヴァークを殺そうとも考えていた。

とても自然な判断だ、だって殺人者という者の多くが『身内』だからね。

親族だとか恋人や友人、仕事仲間だとか主従関係のあいだに起きる……。




―――言って聞かせれば、きっとノヴァークは暴走しないだろう。

殺したいという考えとは、真逆ではあるけれど。

だからこそ、衝動的にやってしまうかもしれない。

今のジャンからすれば、シドニア・ジャンパー以外は殺してもいい標的だ……。




―――先ほどの反省点も、ジャンのなかにはある。

傭兵コルテスに足止めを喰らってしまった、何たる失態なのだろうか。

そのせいで作戦に遅れが出て、失敗の可能性そのものが増えてしまっていた。

それはとても歯がゆいことだ、ジャンはもっと完璧な猟兵でいたいのさ……。




―――だからこそ、ジャンはとてつもない深度の集中力を保っている。

言い争うシドニア・ジャンパーと、その弟子であり部下であるノヴァーク。

その様子をじっと観察しながら、全方位を狙っていた。

シドニア・ジャンパーに害を成す者は、『とりあえず殺さなくちゃ』……。




―――ボクたちはジャンの育成というか、教育にもっと慎重さがあってもいい。

それは分かっているけれど、計算や読み書きを教えるのに集中していたんだ。

本当に何も知らなかったからね、孤児院から逃げ出した『狼男』の少年は。

迫害と悪神にそそのかされて孤児たちを虐殺した苦痛しか、得られていなかった……。




―――ジャンが自ら、読書という内省的な趣味を見つけてくれてありがたい。

ボクたちの教育において、識字を教え込めたのは最高の成果と言えるだろう。

自己学習で補ってもらうべきだ、猟兵たちは戦争するので忙しいんだからね。

ああ、我々は仲間であり戦友であり親友だが保護者にまではなれていない……。




「私は、お前の親どもの代わりじゃない」

「そんな感情、少尉に持っていない!!」

「そうか?親の代わりとして、私に懐いていたと思うが」

「挑発しないでくれ。オレが、そういう話題を振れば感情的になるって知っている。だから、利用しているんだ。でも、オレはそんな言葉で動揺したりはしない」




「敵に寝返ったからな。オトナになったというわけだ」

「少尉のためだ。それも、きっと分かってくれていると思う。少尉は、追い詰められてしまっている。ソルジェ・ストラウスは、貴方を殺そうとはしない。利用価値があるからだ」

「道具として使われる。それを、私が喜ぶと思うか?」

「喜ぶとか、喜ばないとかじゃないよ。少尉、生きるか死ぬかなんだ。だとすれば、議論の余地なんてどこにもないだろう」




「いいか、ノヴァーク。お前に授業をしてやろう。オトナという生き物はな、子供よりずっとワガママなんだよ」

「そんなハナシ、ムチャクチャだ……っ」

「だが、それが現実だ。子供よりも、よっぽど欲深くて、邪悪だからこそ。子供がしでかす破滅的な事態よりも、はるかに酷い。子供は家一軒付け火で焼き払うぐらいが精いっぱいだが。オトナは国をも焼き払う。ワガママなのさ。衝動にあまりにも素直だ」

「ワガママだから、非合理的な道も選ぶっていうのかよ……」




「お前とて、私が欲しいからソルジェ・ストラウスの軍門に下った」

「……そ、それは……っ」

「生々しい感情だな。欲望そのものと言っていい。恩を売るつもりか?私を助け出して、命を与える……生きている私でなければ、お前は、満足しないからだろ」

「少尉、オレは、貴方に死んでほしくないだけだ。しょ、少尉が、ライザ・ソナーズ姫さまを敬愛しているのは知っているよ。でもね……か、彼女は亡くなったんだ。彼女を復活させるために、な、何をしようとしているのか……」




「生贄になる。我が身を捧げるんだよ。知っているだろうに」

「それを、やらせたくないんだ!!」

「やるさ。やり遂げる。そのためになら、どこまでも人間性を捨てられるぞ」

「少尉、そういうのはやめて―――」




「―――たとえば、お前も、生贄に巻き込むとかな」




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