第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千五十三
―――挑発しながらも、カレン・コルテスに余裕はなかった。
血が沸騰しそうなほどに、『楽しかったから』だよ。
自分殺す死神みたいなミアが、すぐ目の前に迫っているというのに。
死線をくぐり過ぎた者が到達してしまう境地に、カレンは到達している……。
―――傭兵コルテスとして、多くの戦場にいた。
『トゥ・リオーネの地』の都市国家たちは小さく、つまり戦争が多い。
圧倒的な強国があれば、その国の権威と振りまく恐怖に皆が従っただろう。
だが、『プレイレス』は西の土地の結束を喜ばなかったからね……。
―――ヒトは簡単に戦争をするものだよ、政治的および経済的な動機に基づいて。
『プレイレス』が商業的な取引で脅せば、西の都市国家はすぐに困り果てる。
対等なパートナーではなくて、明確な序列が支配する上下関係だったから。
露骨に言えば奴隷あつかいだよ、小国の悲哀は数多い……。
―――『王なき土地』という哲学が一致していたことが、救いではあった。
もしも、『プレイレス』に強烈な覇権王国が現れていたなら。
あっという間に『トゥ・リオーネの地』は、吞み込まれていただろう。
小規模な都市国家であることを望む方針が、併合まではもたらさなかった……。
―――だが、『プレイレス』は研究を行っていく。
『大学半島』で政治や統治について、恐ろしいほど冷徹に学問化した。
都市国家の性質についての洞察は、吐き気がするほど現実主義だ。
どんな性格のリーダーが、どんな政治を行うかを分析済みなのさ……。
―――分析したところで、ヒトの行動を予測し切れないと思いたいはずだ。
でもね、どうやらヒトが選べる行動というものは極限状態ほど少なくなる。
追い詰めれば、獣や虫のように生来の傾向に依存して動くだけ。
数百年の政治を研究したことで、王制よりも高度な統治の仕組みを発見している……。
―――最たるものが、不平等な態度だよ。
分断という能力は、強国が小国群を管理するときに使いたがる手法だ。
『プレイレス』に媚びた都市国家ほど、有利な商取引が行える。
人質でもあるが有力者の子供たちを、留学生として招きまでした……。
―――序列を強いることで、結託することを防いだのさ。
『プレイレス』に従順であれば、多くを与えて。
そうでない態度の都市国家には、残酷なまでにケチになる。
『トゥ・リオーネの地』の都市国家たちは、その結果不仲となった……。
―――すべての都市国家に同じ扱いをすれば、同じ意志が結成されるかもしれない。
露骨な弾圧を強いれば、すべての都市国家が『プレイレス』に反旗を翻す。
だが、どこかだけが優遇されているのさ。
優遇されない都市国家は、その優遇をアンフェアにも思うだろう……。
―――それだけで済めばいいが、少ない確率で戦争の火種になった。
嫉妬や怒りを煽れば、実に簡単に血が流れていくものだ。
『プレイレス』に協力することで、富を得た者への襲撃は多い。
襲撃された者の反撃も、かなりの破壊をもたらした……。
―――『プレイレス』が雇った傭兵や、貸し出してくれた軍隊の助力のおかげだ。
もうそうなれば、ほとんど内戦状態になっていく。
何度も何度も、その種の政治工作は繰り返された。
繰り返されたのは、常套手段としてあまりにも優れていたからだね……。
―――多くの『トゥ・リオーネの地』の都市国家たちが、大量の死者を出した。
内戦の結果、この土地の戦力は大きく損なわれていく。
食料を買う金もなければ、畑だって失うことはいくらでも起きた。
その結果、困窮した者たちは『プレイレス』により依存するしかなくなった……。




