第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千五十二
―――ミアとカレン・コルテスの戦いも、決着がつこうとしていた。
ミアはソルジェとキュレネイとは違い、呪術に関しては無視している。
徹底的に仕留めるモードになったからには、カレン・コルテスに勝機はない。
だが彼女の傭兵としての技巧もかなりのもので、素早く武器を変えた……。
―――棍棒だよ、鋼ではなく頑丈極まる白トネリコの四尺棒。
ナイフや爪では切り裂くことも、折られることもない。
ミアの素早さを相手に、リーチと武器の軽さで挑んだわけだ。
とてもいい判断であり、床に置いていたそれに持ち替えるのも巧みなものさ……。
―――足先で蹴り上げ、左手で握りしめる。
ミアの記憶のなかにある、防御に関しては最強の人物。
オットー・ノーランを彷彿とさせる動きで、武術のルーツに共通項を感じた。
サージャー独自の武術というわけでなく、旅人用の護身用武術だからね……。
―――法律によれば、露骨な武器の持ち込みを禁じる地域もあるものさ。
旅する商人や、ただ領主に年貢や税金の徴収の免除を頼み込むための旅人。
あるいはそれを装う暗殺者や反逆者、その種類の人々に鋼を持たせたくはない。
領主側からすれば素直な感情だろう、武器を持って近寄られるよりは……。
―――棍棒は『杖』とも言い張れるし、武器の類としては一見貧弱だ。
分かりやすい殺傷性はないからね、剣や槍に比べては明らかに弱い。
ただし、棒で打ち殺された者が果たしてこの世にどれだけいることか。
鍛錬された武術で運用すれば、白トネリコの棍棒は十分な武器ではある……。
―――ミアのような子供のケットシー族相手なら、当たればいちころさ。
だから、ミアは当たらないように動いている。
カレン・コルテスも防御に徹し、ミアの体力を消そうと必死だ。
動きを見て慣れようともしている、ソルジェの鋼の嵐とはあまりにも異なる……。
―――変幻自在の気ままな疾風は、軽やかであり幻惑的だった。
カレン・コルテスも動きには自信があった、事実かなりの武術の達人である。
防御にまつわる技巧は、およそセンスに依存するものだけれど。
ミアの動きに、ある程度までついていける時点で素晴らしいよ……。
―――牽制のための薙ぎ払いで、ミアの接近を足止めした直後。
全身をくるりと回転させながら、棍棒の反対側で叩きつけてくる。
それを回避したミアから、距離を取りながらも続けざまの突きを盾に使う……。
―――オットー・ノーランと同じ、とまではいかないけれど。
十分な棒術の使い手であり、その身体能力は人間族では最上級だ。
速さと柔軟性、呼吸の管理については超一流。
人生の大半を武術の特訓に明け暮れた者らしい、感動的な完成度であった……。
―――それでも、時間稼ぎにしかならない。
彼女自身も気が付いている、棍棒が領主たちの自衛の法を回避した理由。
それは鋼を用いない武器が、鋼に対しては強度不足だからである。
戦斧の一振りを棍棒で受けられるとは、やはり限らないからだよね……。
―――戦場で領主やその兵士が振るう鋼は、分厚くて重みがある。
木製の武器だけでは、打ち合えば壊されることも少なくない。
鋼と違い、触れるだけで肉を切り裂けもしないという点も大きいけれど。
とにかく、ミアはその弱点に攻めを放っていた……。
―――自分を牽制するために放たれる、華麗な打撃技の多く。
それに対して、身に触れるギリギリまで近づけることを許した。
かすらせる寸前まで、いや黒髪の毛先には触れさせてやっている。
距離感を究極に把握しながら、必要最低限の回避で体力消費を抑えていた……。
―――カレン・コルテスからすれば、絶望的な実力差を見せつけられている。
棍棒の選択は良かったが、限界というものもあったのさ。
的確なヒットをさせなければ、かすらせただけで傷を負わせられもしない。
木製武器の弱さは、やっぱりある……。
―――抑止力とは、死と痛みに根差すものだからね。
それを嗅ぎ取らせる力がない点は、戦闘用の武器としての弱みでもある。
護衛用の武具は、やはり護衛用であるべきかもしれない。
オットーが素直に槍を使っていれば、今まで三倍は多く敵兵を殺したはず……。
「悪くない武器だよ。でもね、鋼のがいい」
「それは、分かっている」
「でしょうね。だから、そろそろ、終わらせる」
「やれるものなら、やってみろ!!」




