第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千三十二
―――『魔力のデコイ』、それに対してゼファーは大きく心をくすぐられた。
『強者にほど有効』、そういう概念もね。
ゼファーがそれを修得したとき、使ってみたい相手はヒトでも帝国軍でもない。
自分と同じ時代に生まれてしまった、もう一匹の『グレート・ドラゴン』……。
―――ルルーシロアが独立独歩、野生の道を選んだのであれば。
ゼファーがヒトの力と知識を吸収する、同盟の道を選んだ竜である。
『魔力のデコイ』があれば、ルルーシロアさえ出し抜くかも。
戦闘を至高の快楽と考えている、ストラウス家の竜らしい発想だね……。
―――だが、『デリバリー』の構造を考えてもいだろう。
ヒトよりもはるかに賢い思考速度の持ち主は、プライドのせいで秘密にしても。
『ゼファーとルルーシロアによる、魔術共有/ドラゴン・デリバリー』。
その可能性をすぐに思いついて、そして意図的に遠ざけていたのさ……。
―――『メルカ・コルン』の双子が、魔力を共有できるほど似ているのならば。
『グレート・ドラゴン』たちは、どうだろうか?
その答えは、『とてつもなく似ている』。
似た存在であるだけでなく、竜には自身を最適な形質に変化させる能力がある……。
―――つまりは、『ドラゴン・デリバリー』を企画したとき。
『グレート・ドラゴン』が、『それ以上の戦術』を見つけられない限り。
ほとんど自動的に、お互いの形質は似通ってしまうだろう。
そもそも、先日の決闘的な空戦を経てお互いの進化構造は似通ってもいる……。
―――ただの協力魔術を超えた、『ドラゴン・デリバリー』。
ゼファーとルルーシロアが、その強大な魔力でそれを放ったとき。
どれほどの威力になるのかは、戦闘狂のソルジェじゃなくても興奮するよ。
数百の軍隊が、その一瞬で吹き飛ぶかもしれない……。
―――リエルやミアによって、『風』の力で気圧を調整した直後。
『ドラゴン・デリバリー』の『雷』が、その場に放たれたらどうなるだろう。
これまでの竜と軍団の戦いでは、あり得なかった結果が起きるかもしれない。
ゼファーはその可能性に、このとき潜在的に気づいたのさ……。
―――それは、竜の本能を満たすような戦い方ではないかもしれない。
だが、帝国軍を破壊するためには適した方法ではあった。
ボクとすれば、ゼファーがルルーシロアと決闘したいのなら止められないが。
それをする前に、帝国軍を破壊し尽くしてからにして欲しくもあるよね……。
―――敵は、とても多いのだから。
まあ、ゼファーも現状では『ドラゴン・デリバリー』を使えない。
ルルーシロアも協力など、そう簡単にはしてくれないだろうさ。
自分の強さを、それで向上させるとは思えないからね……。
―――瞬間的には、強くなるだろうけれど。
相手に依存した成長を、竜の本能は基本的に認めない。
ルルーシロアは、その傾向がとくに強くもある。
今は、『魔力のデコイ』についてゼファーが集中していてもいいのさ……。
『それが、あれば。てきへいのやを、かいひしやすくなるね』
「だよね。ゼファーちゃんは高速で飛んでいるから」
「空中で敵の認識を、ちょっとでも歪めれば」
「『魔力のデコイ』をばらまくことだけなら、やれるでしょう。ただし、魔力の消耗が激しくて、『デリバリー』の利点である魔力の共有による省エネルギー化があってこそ、活かせるのですが」
『るるーしろあと、たたかうときにつかうには……むいてないかも』
「ルルーシロアとは、誰でしょうか」
『いやな、しろいやつ』
「竜なんだ。ゼファーちゃんと同じ、すごい竜」
「仲があまり良いとは、言えないみたいなんです」
『あいつ、きらーい』
「竜のライバルがいるのですか。なるほど、それは成長を促してくれそうだ」
『それは、まあ、ある。あいつから、とびかた、けっこうおぼえた。ぼくのとびかたも、おぼえられたけど』
「切磋琢磨しているわけですね。竜もヒトも……」
「プレイガストさん、嬉しそうですね」
「教師、だからでしょうか?」
「そうかもしれない。君たちも、『外』とこの世界を呼ぶように。私も、長らく帝国に捕まり、日の当たらない場所に長くいた。妻との、狩りが最高の時間のひとつだったことも、すっかり忘れてしまうほどに……私は、『外』であるこの世界と、隔絶を強いられていた。嬉しいことだ。私は、少し、過去を取り戻せている。切磋琢磨する若い魂に触れることでね」




