第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千三十一
―――プレイガストは冷徹な目で地上を見下ろしながら、考えている。
傭兵どもはあきらめてしまった、竜に上空を取られ続ける絶望は重たく大きい。
教師でもあった男らしく、可能性を育てれる仕事を選ぼう。
地下の作戦には、さすがに介入できないだろうから……。
「『デリバリー』の能力は、すさまじいものです。ひとつの魔術をふたりで分担するなど、前代未聞。同時に融け合わせるように使う者とは、また別格……キュレネイ殿のそれも、見事でありましたが、彼女自身も言っていた通り、おふたりのそれとはまた別物」
「うん。キュレネイさん、すごいよね」
「私たちは双子で、しかも、『メルカ・コルン』だからやれるのだと思います。『メルカ・コルン』は、全員が、その……ホムンクルス。同一人物みたいなものです。そのなかの、双子ですから」
「特殊性は高い。しかし、すべての力は応用で更に化けるものです。呪術師としての目線から言わせていただければ、『保存』という手法も良さそうですな」
『んー、『ほぞん』?まじゅつを、ためておくの?』
「そう。まさに、そうです」
「具体的には、どうするのかな?」
「呪術は時間差攻撃が得意です。罠のように仕掛けて、しばらくしてから牙をむく。『保存』は、『デリバリー』で作られた魔術を、現在ではなく未来で使う方法です。魔術が完成に至る行程を、後にずらすと言うべきでしょうか。魔術師単独なら、わずかな時間差で対戦相手の意表を突くなどしていますが、『デリバリー』ならもっと強烈にずらせるでしょう」
「たしかに。私とククリの間で、魔術を99%完成させておきながら……『私が保存』しておいて、前線で敵と戦っている最中のククリがいきなり魔術を放てば……」
「最大火力の魔術の予備動作は、本来、異常に目立つものです。ですが、それがない。魔術の『保存』、あるいは『未来に送る』という変則が、『デリバリー』には秘められていそうです」
「……す、すごい。その奇襲なら、どんな敵でも対処できないかも」
『みらいに、おくる……か』
「なかなか柔軟な力だと思います。キュレネイ殿のように、同調した相手の能力も借りられるのですから」
「そう、ですね。私とククリは、とても似ているけれど。微妙に得意分野が違うんです。まあ、技巧や能力ではなくても、感覚をふたりで共有しながら……それは、呪術的ですよね。他者の感覚を乗っ取る」
「左様。おそらく、『デリバリー』という魔術が使えるおふたりならば、すでにその種の連携を成しているのかもしれません。自然過ぎて、自分たちでは気づけないほどに」
「それは、あるかもしれない」
「ソルジェ兄さんと、キュレネイさんがやれるのですから、私たちにやれないはずはないですね」
「おふたりの力を、より別の形で認識することでも強さが生まれるでしょう。たとえば、ククリさんが『炎』を使う様子を見せておきながら、敵にそれへ備えさせておきながら、ククルさんが用意していた『雷』の魔術構成にいきなり変える」
「それは、すごい……っ」
「やられたら、意味が分かりませんね」
「情報戦という意味でも、おふたりの『デリバリー』は優れているんです」
『ぷれいがすと、かしこしね!ちょっと、いじわるなたたかいかただけど、すごくつよい!』
「おほめにあずかり、光栄です」
「……『デリバリー』、研究した方が良さそうだね、ククル」
「ええ。これは、想像以上に強くなれるかもしれません」
―――プレイガストに相談したのは、最適だったかもしれない。
呪術師として、教師としての才能が。
どうにもまっすぐ過ぎる双子の、あまりに特殊過ぎて助言しがたい技巧に。
こんな短時間で有益なコーチングをしてあげられた、本当に稀有な人材だよ……。
「役割分担を明確にすれば、前線でククリさんが多数の魔術を矢継ぎ早に放てるかもしれません。魔術の構成は」
「ククルに全部、お任せしちゃうってわけだね!」
「ククリだけ活躍するのは、ちょっとずるく見えますが。ゼファーちゃんの背に乗った私が、指揮と魔術の構成と魔力の出費を担当すれば……ククルは、今の何倍も強いかもしれません」
「そっか。ククルに指揮ってもらう方法もあるのか」
「感覚を共有する方法を磨ければ、そっちの方が強いかもしれないわ」
「うん。ククルのほうが、戦況把握は上手なんだ。私は、直感型かも」
『ねー、ぷれいがすと。ほかに、おもしろい『でりばりー』のつかいかたはある?』
「おそらく、『魔力のデコイ』という手法も。魔力だけを運んでおくんです。魔術の起点のような複雑さではなく、あらぶる呼吸のように、ただの戦闘の気配のようなものですな」
「それ、ずごく、強いかも」
「優れた戦士ほど、魔力や気配を読み解きますので、強者にほど有効そうです」




